RESEARCH最新の研究内容
病理診断と遺伝子診断が一致したのは44% ー小児がんにおけるパネル検査の限界 research
小児固形腫瘍における網羅的ゲノム診断の有用性
~第61回日本小児血液・がん学会学術集会の報告から~
小島勢二
第61回日本小児血液・がん学会学術集会が、2019年11月14日から16日までの3日間、広島で開催されました。今回、名古屋大学小児科の市川大輔先生が発表した演題 ”Genetic diagnosis based on comprehensive fusion gene analysis in pediatric malignant tumors” の内容を紹介し、小児固形がんにおけるゲノム診断の有用性を論じてみたいと思います。
がん遺伝子パネル検査の保険適用
2019年6月に、がん遺伝子パネル検査が56万円で保険適用となりました。これまでは、一度の検査では少数の遺伝子しか調べることができませんでした。次世代シークエンサーを用いた遺伝子検査では、一度に多数の遺伝子を調べて、その結果に基づいて最適な薬剤を選択できるようになりました。
今回、2種類のパネル検査が保険適用となりましたが、NCCオンコパネルでは114個の遺伝子の変異や増幅のほか、12個の遺伝子に関連する融合遺伝子を調べることができます。ファンデーションワンがんゲノム検査では324個の遺伝子の変異や増幅のほか、一部の遺伝子が関連する融合遺伝子の検出が可能です。
すべてのがん患者さんにおいてがん遺伝子パネル検査が受けられるわけではなく、標準治療で効果が得られない固形がんや稀少がん、小児がんのみが対象です。
小児がんにおけるパネル検査の限界
パネル解析は肺がんや大腸がんなど成人でよくみられるがん患者さんに、遺伝子変異に基づく最適な薬剤を選択するために設計されました。小児がんで変異がみられる遺伝子のすべてを含むわけではありません。
小児がんは、稀であるうえに種類も多く、形態的にもよく似たがんが多いので、小児病理の専門医でも診断に迷うことはよくあります。
最近の分子生物学の進歩により、小児がんの多くは特異な融合遺伝子が原因であることがわかってきました。すなわち、融合遺伝子がわかれば正確な診断をつけることができます。そのためには、ヒトにある2万個の遺伝子のすべての組み合わせからなる融合遺伝子を探索できる方法が必要ですが、次世代シークエンサーを用いて、RNAシークエンス法という網羅的遺伝子解析法を用いると可能です。
小児軟部腫瘍に対する RNA シークエンス
病理診断と遺伝子診断が一致しなかった症例
今回の研究では、名古屋大学で経験した横紋筋肉腫、ユーイング肉腫など49人の小児軟部腫瘍を対象にRNAシークエンスをおこない、病理診断と遺伝子診断を比較しました。25人で遺伝子診断が得られましたが、病理診断と遺伝子診断が一致したのはそのうち11人(44%)のみで、14人(56%)については一致しませんでした。
3人は、これまで報告がみられないか、ごく最近発見された遺伝子変異で、網羅的遺伝子解析をおこなわなければ診断がつかなかったと思われます。診断が困難な小児がんにおいても、網羅的遺伝子診断をおこなうことで正しい診断をつけることや効果のある治療薬の選択が可能となります。すべての小児がん患者を対象に、網羅的遺伝子診断をおこなう時代が到来したと思われます。
名古屋小児がん基金の役割
RNAシークエンスに加えて2万個ある遺伝子の全エクソン領域(タンパクをコードするゲノム領域)を解析する全エクソーム解析を自施設でおこなうと、20万円ほどの費用がかかります。海外では、寄付金を用いて、小児がんに対する網羅的遺伝子検査がおこなわれています。
わが国ではRNAシークエンスやエクソーム解析などの網羅的遺伝子検査は保険適用がありませんので、名古屋大学では、名古屋小児がん基金への寄付金を用いて、患者さん御家族への負担なくこれらの検査をおこなっています。
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