RESEARCH最新の研究内容

免疫不全症・先天性代謝異常症を対象にした遺伝子治療の最新報告~ヨーロッパ骨髄移植会議EBMT2019 research

2019.5.15
第45回EBMT会議の会場 ドイツのフランクフルトで開催

第45回ヨーロッパ骨髄移植会議EBMT2019の報告から

名古屋大学 名誉教授/名古屋小児がん基金 理事長 小島勢二

 2019年3月24日から27日までの期間、ドイツのフランクフルトで第45回EBMT会議が開催されました。前回はCAR-T療法に関する話題が中心でした。今回は、異染性白質ジストロフィー(MLD)、地中海貧血(サラセミア)、慢性肉芽腫症(CGD)に対する遺伝子治療の最新情報をお伝えします。

遺伝子治療の最新報告

 最近、日本でも成育医療研究センターで免疫不全症の1種である慢性肉芽腫症(CGD)を対象に、レトロウイルスベクターによる遺伝子治療が行われましたが、免疫不全症や先天性代謝異常症を対象にした遺伝子治療の結果が、今回の会議でもいくつか報告されました。

 遺伝子治療は、病気の原因である変異遺伝子に代わって、正常な遺伝子を患者さんから採取した骨髄幹細胞に遺伝子導入し、遺伝子を修正した細胞を、抗ガン剤による前治療を受けた患者さんに投与する治療法で、自家造血幹細胞移植とよく似ています。

 遺伝子導入に用いるウイルスベクターは、以前はレトロウイルスベクターが使われましたが安全性に問題があったため現在は使用されなくなっており、今回の報告でもすべてレンチウイルスベクターが用いられていました。

 欧米では、1億円という法外な薬価でベクター製剤が薬事承認されて話題になりましたが、わが国でも、現在、ノバルテイス社が脊髄性筋萎縮症のベクター製剤を薬事申請しています。

異染性白質ジストロフィー(MLD)に対する遺伝子治療

 MLDはアリルスルファターゼA(ARSA)遺伝子の変異により酵素活性が低下し、スルファチドが過剰に中枢神経にたまるために起こる常染色体劣勢遺伝の病気です。乳児後期型(1~3歳発症)、思春期型(4~12歳)、成人型(16歳以降)があり、わが国の患者数は20人程度です。

 筋緊張低下やけいれんなどで発症し、知能低下や視力障害がみられ、数年で除脳硬直をきたして死亡する予後不良な病気です。治療として、酵素補充療法や骨髄移植がありますが十分な効果は得られておらず、未発症の時期での遺伝子治療が最も有効とされています

 イタリアグループは20人の発症前あるいは発症早期のMLD患者を対象に、遺伝子治療をおこないました。レンチウイルスベクターを用いてARSA遺伝子を遺伝子導入した自己の血液幹細胞を、ブスルファンによる前治療を行った後に、経静脈的に投与したところ、遺伝子治療開始後9~12ヶ月で、髄液中のARSA酵素活性は正常化しております。

 すでに、症状が発症後に治療を行った2人では、病気が進行し、8ヶ月、15ヶ月後に死亡しましたが、症状が発症する前に治療した18名は、遺伝子治療後3年から8年になりますが、正常な運動神経や認知機能の発達がみられ生存中です。骨髄異形成症候群(MDS)などの悪性腫瘍の発生もみられていません。

地中海貧血(サラセミア)に対する遺伝子治療

 

 サラセミアは赤血球ヘモグロビン遺伝子の変異が原因でおこる先天性溶血性貧血です。わが国では稀ですが、東南アジアや地中海諸国では、膨大な数の患者がみられます。重症例では、定期的な輸血を必要とし、鉄過剰症が原因で死亡に至ります。それゆえ、造血幹細胞移植の適応となっています。

イタリア、米国、英国、フランス、ドイツ、タイの国際チームは、16人の輸血依存ベータサラセミアを対象に、BB305レンチウイルスベクター(レンチグロビン)による遺伝子治療をおこないました(Northstar-2研究)。

 レンチグロビンで遺伝子導入した自己末梢血由来血液幹細胞を、ブスルファンによる前治療を行った後に静脈内に投与しました。3ヶ月以上の経過が追えている11例のうち、10例が輸血不要となり貧血の改善が得られています。10例では、ヘモグロビン値は、11.1~3.3g/dLに達していますが、そのうち7.7~10.6g/dLは導入した遺伝子由来のヘモグロビンに置換されています。移植前治療に投与したブスルファンによる肝中心静脈閉塞症が3人にみられましたが、治療関連合併症死はみられませんでした。

慢性肉芽腫症(CGD)に対する遺伝子治療

 

 CGDは、食細胞の殺菌能が低下することで、細菌や真菌にかかりやすくなり、乳児期から重症な感染症を繰り返す先天性の免疫不全症です。活性化酸素を産生するNADPHオキシダーゼを構成する分子異常が原因で、わが国ではgp91phox欠損型が最も多くみられます。遺伝性免疫不全症のなかでは、頻度が高く、わが国でも230人が報告されています。重症例には、同種造血幹細胞移植が選択されますが、重症感染症に罹患している場合の治療成績は十分ではありません。

 欧米では、本症に対して、レトロウイルスベクターによる遺伝子治療が行われましたが、持続的な遺伝子導入細胞の出現もみられず、MDSや白血病への移行が多発したので中止されています。最近、わが国でも、成育医療研究センターが、本症に対して、レトロウイルスベクターによる遺伝子治療を行いましたがMDSへの移行したため、その後は本症に対する遺伝子治療はおこなわれていません。

 今回、イギリス、米国のチームは9人(年齢:2~27歳)の重症CGD患者を対象に、MDSや白血病化のリスクを減じた新規レンチウイルスベクター(G1XCGD LV)による遺伝子治療をおこないました。ブスルファンによる前治療を行った後に、遺伝子導入した自己末梢血由来血液幹細胞を静脈から輸注しました。

 2人は治療前に罹患していた感染症が悪化して、治療開始後3ヶ月以内に死亡しましたが、生存中の7人のうち1人を除いては、12~46%のオキシダーゼ陽性好中球が1年以上持続して末梢血中に出現しています。1人については、6ヶ月以降、NADPHオキシダーゼ陽性好中球が5%以下に低下しました。すべての患者は遺伝子治療を受ける以前は持続性の重症感染症に罹患していましたが、治療後は感染症に罹患することもなく、治療後1から2.5年間生存しています。MDSや白血病への移行もみられておりません。



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