RESEARCH最新の研究内容
9か国の医師・研究者が集いCAR-T療法について討論~GIMI 2019 research
GIMI scientific program 2019の参加報告
私は、このたび2019年4月20日と21日に中国の深圳(シンセン)で開催されたGIMI(Geno-Immune Medical Institute)scientific program 2019に名古屋小児がん基金のサポートを得て参加してきました。
GIMIは深圳市が設立した遺伝子免疫治療研究施設です。深圳は、香港と接し、経済特区に指定された中国4大都市のひとつで、人口1,447万人の大都市です。また、ここは広東料理の飲茶が有名で、香港に近いことから香港料理も味わうことのできる地域です。名古屋から深圳には直行便がないため、関西空港に移動してから飛行機に乗り、4時間半で深圳国際空港に到着しました。到着した日は天候が悪くて、飛行機が遅延したにもかかわらず、空港で迎えの方が待っていて下さり、本当に助かりました。空港から移動する車内から見る深圳の風景は、高層ビルが立ち並び、インフラもきれいに整備され、地下鉄も建設されたばかりで急成長を遂げた都市であることがわかりました。
NGS-MRDとCAR-T療法を組み合わせは治療成績向上に期待できる
今回、私が参加したGIMI scientific program 2019は、中国、香港、日本、台湾、タイ、フィリピン、ロシア、米国、オーストラリアから医師や研究者が集い各国におけるキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法や遺伝子治療の現状と今後の展望を討論するミーティングでした。初日は、主にCAR-T療法について討論を行いました。
最初に名古屋大学の川島希先生が「次世代シークエンサーを用いた微小残存病変(NGS-MRD)に基づいた小児急性リンパ性白血病(ALL)に対するCAR-T療法」を発表しました。名古屋大学が開発した高感度なNGS-MRDを用いることで、従来よりも正確にリスク層別化を行うことが可能となり、適切なタイミングでCAR-T療法を実施することができます。NGS-MRDとCAR-T療法を組み合わせることで、小児ALLに対する治療成績の向上が期待できるという内容で、川島先生の発表が引き金となって、その後のCAR-T療法の発表でも、活発な質疑応答がみられました。
3種類の異なるCAR-Tを3回投与、3年経過した患者自身が発表
中国の北京小児病院や南方医科大学病院からは、自施設のCAR-T療法による治療成績が報告されました。南方医科大学病院からは、成人の再発/難治性ALL患者さんに対してCD19-CAR-Tを2回投与する臨床試験を行ったところ、88%の患者さんで完全寛解が得られたことが報告されました。8例では、寛解が得られた後で同種骨髄移植が施行され、良好な成績が得られています。
続いて、ロシアから紹介され中国でCAR-T治療を受けた患者さん本人が、自身の治療経過を発表しました。この患者さんは、縦隔原発悪性リンパ腫が再発し、脳にも転移していましたが、CD19, CD22, CD30と3種類の異なるCAR-Tを都合3回投与することで、3年経過した現在も再発なく元気に過ごされています。通常は予後が厳しいことが予測されるのに、CAR-T療法を繰り返すことで難治性悪性リンパ腫が治癒したことを、患者さん本人から聞くことができたのは、非常にインパクトがありました。
アジア各国の遺伝子治療の取り組み
2日目は、先天性免疫不全症を中心にアジア各国の遺伝子治療の取り組みが発表されました。はじめにアジアにおける先天性免疫不全症患者さんに対する診断、治療の現状の報告がありました。愛知県では、全国に先駆け2017年から重症複合免疫不全症(SCID)に対する新生児マススクリーニングを開始していますが、台湾や上海などでも同様にSCIDに対する新生児マススクリーニングを始めており、実際にSCIDの患児を発見しているとのことでした。
続いて、名古屋大学の高橋義行教授が「名古屋大学におけるアジア諸国との小児がんや遺伝性疾患に対する共同研究」について発表しました。残念ながら日本を含めてアジア諸国の小児ALLの治療成績は、ヨーロッパや北米と比較すると10%程度生存率が劣っています。そこで、6年前から名古屋大学を含め、中国(北京,上海、天津)、韓国(サムソン、アサン)、台湾(タイペイ)の7病院がコンソーシアムを設立して、最新治療の情報交換や共同研究を開始しています。このような取り組みの現状と展望について報告しました。
マススクリーニングや遺伝子治療の早期実現を訴え
2日目のトピックであった遺伝子治療については、北京小児病院で最近、慢性肉芽腫症(CGD)の男児に対する遺伝子治療を行った報告がありました。遺伝子治療の前に認めた両側の肺炎は改善し、1年経過した現在もとくに副作用や合併症は認めていないとのことでした。
日本でも、最近、成育医療研究センターでCGDに対して遺伝子治療が行なわれましたが、患者さんが遺伝子治療後に骨髄異形成症候群を発症したことで、研究が中断されています。成育医療研究センターは遺伝子導入に、レトロウイルスベクターを使用しましたが、レトロウイルスベクターは、安全性の面から欧米では使われなくなっており、レンチウイルスベクターが主流となっています。北京小児病院でもレンチウイルスベクターが使用されています。
今回は、医師や研究者のみならず、難病の患者団体の代表の参加もありました。日本からは、副腎白質ジストロフィー(ALD)の患者団体「特定非営利活動法人ALDの未来を考える会(A-Future)」の代表が参加して、マススクリーニングや遺伝子治療の早期実現を訴えていました。
「CAR-T療法も遺伝子治療も研究のためにあるのではなくて、臨床現場で実際に使わないと意味がない」
懇親会では、アジア地域の医師や研究者と話をする機会がありました。各国の状況に応じて、利用できる検査法や治療の選択肢も様々ではありますが、各国がより良い医療を提供できるように努力していることが分かりました。このような話合いの機会を持つことは、自分自身にとってのモチベーションにもつながりました。今回のミーティングを主催したChang教授は、CAR-T療法も遺伝子治療も研究のためにあるのではなくて、臨床現場で実際に使わないと意味がないと力説されましたが、これらの先端医療を進める役割の一端が臨床医である私達にもあることをよく理解することができました。
今回のミーティングを通じて改めてアジアの中での日本の立ち位置と中国をはじめとしアジア各国の現状を知ることができました。世界で遺伝子治療が広がりをみせるなかで、今後、日本でどのように発展するのか分かりませんが、小児科領域での重要性を考慮すると、ぜひ、この分野の研究に参加したいと思います。このような貴重な機会をいただけたことを改めて感謝したいと思います。そして、今後、今回の経験を活かせられるよう臨床や研究に努めて参ります。
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