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ALL再発リスクの予測に有用な超高感度微小残存病変の測定 research
急性リンパ性白血病の再発リスクの予測に有用な次世代シークエンサーによる超高感度微小残存病変の測定
小島 勢二
第61回日本小児血液・がん学会学術集会の報告
第61回日本小児血液・がん学会学術集会が、2019年11月14日から16日までの3日間、広島で開催されました。今回、名古屋大学小児科吉田太郎先生が発表した次世代シークエンサー(NGS)による微小残存病変(MRD)測定の有用性を紹介したいと思います。
池江璃花子選手の場合
2019年2月に、緊急入院された池江選手が急性リンパ性白血病で化学療法による治療を受けていましたが、合併症を併発したために化学療法の継続が困難となり造血幹細胞移植がおこなわれました。幸い移植後の経過は順調と報道されています。
池江選手のように、急性リンパ性白血病の経過中に合併症を併発し、治療の変更を余儀なくされる患者さんはしばしば経験します。このような場合、治療の早い段階でその後の再発リスクが予測できれば、治療法を選択するにあたって大変有用です。
名古屋大学で経験した急性リンパ性白血病の患者さんの場合
今回の学会で吉田先生が発表した患者さんは、もともと再発のリスクが高く造血幹細胞移植が予定されていましたが、経過中に化学療法による合併症を併発してしまいました。造血幹細胞移植は、患者さんにとって侵襲がつよいので、できれば避けたいところですが、再発のリスクが高ければ選択せざるをえません。
保険適用となったMRDの測定
化学療法によって白血病細胞が消失したかは、専門医が顕微鏡で判断しますが、顕微鏡では、せいぜい100個ある骨髄細胞から1個の白血病細胞を検出できる(10-2)レベルです。完全寛解が得られても、患者さんの体内には目にみえないレベルの白血病細胞が残っていると考えられます。これをMRDと呼びます。
2019年の6月から急性リンパ性白血病細胞の免疫遺伝子再構成を用いたPCR法によるMRDの測定が保険適用となりました。PCR法によるMRD測定では、1万個の骨髄細胞から1個の白血病細胞(10-4)の検出が可能です。
NGSによる超高感度MRD測定法
名古屋大学小児科では、急性リンパ性白血病細胞の免疫遺伝子再構成を、NGSを用いて検出することで、100万個の骨髄細胞から1個の白血病細胞(10-6)を検出する超高感度MRD測定法を開発し、日常診療に役立てています。
超高感度法を用いると、寛解導入直後(day33),強化療法直後(day80)の2ポイントでMRDが陰性であった場合には、化学療法のみでも再発リスクは極めて低く、5年生存率は97%に達しています。
一方どちらかあるいは両ポイントでMRDが陽性の場合、5年生存率は58%にすぎません。保険で測定検査可能な10-4レベルのMRD測定法では、NGSによる超高感度法のように、正確に再発リスクを予測できません。
発表された患者さんは両ポイントでMRDが陰性でしたので、造血幹細胞移植は避け、維持療法を継続していますがこれまでのところ再発はみられておりません。超高感度法によるMRD測定は、この患者さんのように治療法を選択するにあたって極めて有用で、日常診療に必須となっております。
名古屋小児がん基金の役割
急性リンパ性白血病細胞の日常診療に、超高感度MRD測定法を役立てているのは、現在のところ国内では名古屋大学のみです。1検体の測定に必要な検査試薬代は1万円ほどです。保険適用がありませんので、名古屋大学では、名古屋小児がん基金への寄付金を用いて、患者さん御家族の負担なくこれらの検査をおこなっています。
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