RESEARCH最新の研究内容

第10回 日本血液学会国際シンポジウム2019の参加報告 research

2019.6.22

第10回日本血液学会国際シンポジウム2019の参加報告

名古屋大学 小児科 若松学
第10回日本血液学会国際シンポジウム2019

 第10回日本血液学会国際シンポジウムが、2019年5月17日から18日の2日間、三重県の伊勢・志摩で開催されました。本シンポジウムの会長は三重大学血液内科の片山直之教授です。

 今回は、三重県の松阪市出身で、三重大を卒業された稲葉寛人先生が ”小児急性リンパ性白血病におけるプレシジョン・メデイシン“ という題名で基調講演をおこないました。稲葉先生は現在、米国のセントジュード小児研究病院で、急性リンパ性白血病に対する主任研究者を務めており、最新の治療プロトコールに関する情報はたいへん参考になります。

小児急性リンパ性白血病におけるプレシジョン・メデイシン

稲葉寛人先生 セントジュード小児研究病院
セントジュード小児研究病院 稲葉寛人先生

 稲葉先生は、セントジュード小児研究病院における急性リンパ性白血病(ALL)の治療成績を年次ごとに提示されました。

 現在、セントジュード小児研究病院では小児ALL患者さんの全生存率は90%以上に達しているものの、治療終了から10年経過した後に頭蓋内腫瘍などの2次がんを発症する患者さんがみられることが問題となっています。そこで、2次がんによって治療成績が下がるのを少しでも改善するために、セントジュードでは様々な取り組みをおこなっています。

 現在進行中の “トータル17研究” では、遺伝学的診断に重点を置き、次世代シーケンスによる遺伝子解析、分子標的療法、そして微小残存腫瘍(MRD)の測定を柱として診療しています。

 初発のALL患者さんは、診断時に次世代シーケンスを用いて正常検体と腫瘍検体の遺伝子解析を行い、リスク層別化を行い、またRNAシーケンスの結果で分子標的療法が可能であれば、それによる治療介入を行います。実際にRNAシーケンスは、治療開始から10日以内で結果を主治医が知ることができ、有意な遺伝子異常がみられない場合は、全ゲノム、もしくは全エクソーム解析を行っています。

 また、寛解導入療法後は、MRDの結果に基づいて以降の治療方法を選択します。MRDが残存する場合は、4-1BBを共刺激分子としたCD19-CAR-T療法、またはブリナツモマブ(商品名:ビーリンサイト)による治療を続けます。なお、MRDが1%以上であればCAR-T療法を選択します。

 米国では製薬会社の販売するCAR-T製剤は5000万円以上しますが、セントジュードでは、自施設で製造しているので、その1/10以下の費用で投与することができます。とりわけ、乳児ALL(MLL陽性)患者さんにはボリノスタット(商品名:ゾリンザ)とボルテゾミブ(商品名:ベルケイド)の併用が有効であることを強調されました。

わが国における血液がんに対するプレシジョン・メデイシン

名古屋大学 名誉教授/名古屋小児がん基金 理事長 小島勢二

 日本においても、固形がんを対象にがん遺伝子パネル検査が保険適応となり、白血病などの血液がんについても遺伝子パネル検査の保険適応が計画されています。

 固形がんでは、OncoGuideとFoundationOne という2つのパネル検査が採用となりましたが、OncoGuide では114個の FoundationOne では324個の遺伝子の変異を調べることができます。その検査価格は56万円になりましたが、保険適応となるので、患者さんは3割負担です。現在検討されている血液がんに対する遺伝子パネル検査も固形がんの遺伝子パネル検査と同様に300個前後の遺伝子の変異やコピー数を調べることが可能です。

 セントジュードがプレシジョン・メデイシンを進めるにあたって採用したRNAシークエンスとパネル検査とはどのような違いがあるのでしょうか。パネル検査においては、ヒトに存在する2万個ある遺伝子のなかから血液がんにみられる100から300個の遺伝子を選択し、遺伝子の変異やコピー数の変化を検出することが可能です。

 一方、RNAシークエンスは、細胞中にあるすべての遺伝子転写産物の配列や発現量を解析する手法です。白血病では、染色体の転座や、挿入、逆位などの組み替えの結果、複数の遺伝子が連結して融合遺伝子が生じます。融合遺伝子は、病型や予後の診断さらに分子標的療法の標的になるなど、その検出は臨床的に極めて重要です。

 Ph-like ALLは、Ph染色体は検出されませんが、遺伝子発現パターンがPh染色体陽性ALLと類似した一群で、予後不良なことが知られています。チロシンキナーゼ阻害剤など、分子標的薬の対象となることから、ALLの治療成績の向上にはその診断は欠かすことができません。

 パネル検査では、融合遺伝子やPh-like白血病の診断はできませんが、RNAシークエンスをすることで可能となります。全ゲノムや全エクソーム解析ではひとにある2万個すべての遺伝子の変異やコピー数の変化を検出可能ですので、セントジュードがおこなっている遺伝子診断法はわが国が今後採用する予定のパネル検査を先んじているということができます。

 名古屋大学小児科でも、ALL患者については、セントジュードと同様にRNAシークエンスやエクソーム解析をおこなっています。その解析費用はRNAシークエンス、エクソーム解析をあわせても15万円ほどです。なお、名古屋小児がん基金への寄付金で検査しているので、患者さん家族の負担はありません。

新規ALL 患者におけるRNAシークエンスの結果



名古屋小児がん基金・ゴールドリボン
ゴールドリボンは
小児がんへの理解と支援のシンボルです
世界最高レベルの医療をすべての子どもたちに
名古屋小児がん基金は、日本初の地域に根ざした小児がん研究・治療の支援団体として、名古屋大学医学部附属病院(名大病院)小児科が中心となって発足しました。小児がん拠点病院である名大病院で日々進んでいる研究を、目の前の患者さんに活かせる仕組みづくりを進めています。

皆様からいただいた寄付金は、最新の診断方法や治療を小児がんの子どもたちに届けるために使われます。世界最高レベルの医療をすべての子どもたちに届けるため、皆様のご支援ご協力をよろしくお願いいたします。
寄付する
トップへ
名古屋小児がん基金 NOW LOADING...