ACTIVITIES基金の活動報告
名古屋小児がん基金3周年記念イベント「守れ!日本の小児がん医療」 activities
名古屋小児がん基金は、多くのみなさまからのご支援、ご協力のお陰で、6月に3周年を迎えることが出来ました。まずは、無事に3周年を迎えることができましたこと、この場を借りて、心より感謝申し上げます。
3周年を迎えるにあたり、ご支援いただいているみなさまにこれまでの活動と、現在の基金の取り組みについて報告することを目的に、2019年6月8日に、名古屋市中区役所ホールにて名古屋小児がん基金3周年記念イベントを開催しました。
3年前、小島理事長は名古屋大学を退官するにあたり、高額な薬剤の登場によって日本の皆保険制度が崩壊してしまい、その結果、経済的な理由により命が選別される未来がくることを懸念して、名古屋小児がん基金を立ち上げました。しかし、次々と超高額な薬剤が保険適応となっている最近のわが国の医療情勢から、そんな懸念が、足下にまで迫っているのではないかという危機感に駆られます。
そこで、今回の3周年記念イベントは「守れ!日本の小児がん医療」をテーマに、わが国の皆保険制度の危機を訴えている国際ジャーナリストの堤未果氏をメインゲストに迎えました。なお、今回も司会進行は、矢野きよ実さんにお願いしました。
小島理事長による活動報告から始まり、名古屋大学小児科高橋教授、村松講師、東京都立小児総合医療センター血液腫瘍科松井医師、堤未果氏による講演が行われました。
まず、小島理事長から、この1年間における名古屋小児がん基金に対する多くの方々による支援活動の紹介がありました。チャリティマラソンやコンサートの収益を寄付してくださったり、自らが率いるバンドのライブを毎月行い、その収益金を寄付してくださった患者さんのお父さんもみえました。また、バザーで焼き鳥を販売してその売り上げを寄付くださるなど、たくさんのみなさまが積極的に支援活動をしてくださりました。
基金では、そういった支援金で、患者さんご家族の負担なく、最新のゲノム医療を必要とする患者さんに届けております。また、発展途上国における小児がん医療や小児がんを専門とする医師間の国際交流の支援もおこなっています。まだ日本では受けることができないCAR-T療法などの最新治療を、海外で受けることができるように便宜を図っています。
白血病の新規治療薬であるCAR−T療法への期待が高まる中、ノバルティス社のキムリアが保険適用となり、その価格は3349万円という超高額薬となりました。日本では保険制度によって小児の患者さんではご家族の負担なしで、成人でも高額療養費制度によって20〜40万円の経済的負担で使用可能です。有効な新規治療薬が保険適応となり、誰もが使えるようになることは、朗報であることに間違いはありませんが、一方で日本の保険財政に与える影響も心配されています。
名古屋大学では、高橋教授らが独自の方法でCAR−T療法の開発に成功しており、厚労省の許可を得て、臨床研究を開始しています。アカデミアで製造すれば、必要とする患者さんに安価なCAR−T製剤を届けることができる可能性があり、名古屋大学では、そのような可能性を探っています。基金も、名古屋大学の挑戦を全面的に支援しています。
そんな折、タイのチュラロンコーン大学からCAR-T療法に関する技術提携の依頼があり、名古屋大学が開発したCAR-T細胞の製造法を無償で技術援助をおこなうことになりました。すでにタイの先生方の研修が始まっており、年内にはタイでCAR−T療法が開始される予定です。
高橋教授は、自分たちが開発した技術でタイや世界中の子供達の白血病が治るのは喜ばしい反面、「何故こんなに日本では患者さんに新しい治療を届けるのに時間がかかるのだろう。自分たちが開発した技術なのにどんどん他の国に先を越されてしまう」というジレンマを訴えられました。
村松講師からはゲノム医療の進歩により今まで診断がつかなかった病気の診断がついたり、最適な薬剤を投与する事ができるようになってきている。ゲノム医療を安価に必要とする患者さんに届けることが出来るように研究、開発を進めているとのお話がありました。
松井先生はご自身が小児がんサバイバーであり、「STAND UP!!」という若年世代のがん患者さんの支援団体の活動を通して、患者さんのサポートをされています。ご自身が体験されたことを通して、患者さんたちが抱えている悩みや困難についてお話いただきました。
がんを抱えながら生きていくということは、多種多様な困難に直面すること、そして、それに対する答えは1つではなく、その答えを見つけるにはピアサポートがとても重要であることを強調されました。松井先生は、今後も医師として医療の面のみならず、ピアサポートとの両輪で引き続き小児がん患者さんの支援を続けられるそうです。
堤未果氏は、医療や保険がアメリカではビジネスであり、いかに儲けを出すかが最重要視されていることを話されました。最近、開発されたCAR-T製剤などの新薬の多くは、研究者がベンチャー会社を立ちあげ、いかに自分たちの開発した新薬を高く大手製薬会社に売るかを競っています。大手製薬会社は、高額なパテント料を支払い新薬の販売権を手にいれたり、または直接ベンチャー会社を買収しています。その結果新薬は驚くほど高額な値段が付くのです。彼らにとって新薬の開発はマネーゲームの一端なのです。
アメリカでは、重症な病気の治癒率は、 どんな保険を持っているかで決まるそうです。保険を持っていない患者さんは、保険がある患者さんと比較して、生存率が劣るというデータも発表されています。日本の皆保険制度のような保険制度はなく、個人個人の収入によって保険が違うので、医師も目の前の患者さんに全力で向き合い治療することができないそうです。保険でカバーされなければ、その医療費は病院の負担となってしまうからです。いかに高い保険に入り、高額な治療が受けられるかどうかで運命が左右されるのです。保険適応となれば、どんな高額な薬でも確実に支払われる日本の保険制度は、世界の製薬企業にとって最高の条件が整っている市場なのです。
現在の日本の素晴らしい皆保険制度を守っていくためには、国民一人一人が当事者としての意識を持ち、実際を知ること、そして守るためのアクションを起こすことだと話されました。
最後に大竹副理事長が閉会の挨拶として、「スッキリしないモヤモヤした気持ちですが、知ることが大事なことだと改めて思い知らされました」と締めの言葉を述べました。会場にいた多くの方は皆同じ思いだったのではないでしょうか。
長時間に渡ったイベントでしたが、来場されたみなさまの殆どは最後まで退場することなく、基金の思いを持ち帰ってくれたのではないかと感じています。ご来場いただいた多くの皆様、そしてイベント開催にあたりご協力いただいた多くの皆様に心より感謝申し上げるとともに、4周年、5周年に向けて益々精進して参りますので、これからも引き続きご支援いただけますようお願い申し上げます。
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