RESEARCH最新の研究内容

【KIRリガンド不一致同種臍帯血移植】再発神経芽腫の治療として極めて有望 research

2019.4.5

日本造血細胞移植学会総会に参加して

名古屋小児がん基金 理事長/名古屋大学 名誉教授
小島勢二
第41回日本造血細胞移植学会総会

 第41回日本造血細胞移植学会総会が、2019年3月7日から9日の3日間、大阪で開催されました。大阪母子医療センター血液・腫瘍科 主任部長の井上雅美先生が学会長でしたが、小児科医が本学会の会長を務めるのは、私が2010年に浜松で本学会を開催して以来とのことで、内容も小児科医にとっては興味深い演題が数多く発表されました。

 今回は、最新の進行期神経芽腫の治療成績を中心に紹介します。

ハイリスク神経芽腫に対する初回治療

タンデム移植で治療成績向上:韓国サムソン医療センターの報告から

 サムソン医療センター小児科のSung教授は、韓国における神経芽腫治療のリーダーです。これまで、ハイリスク神経芽腫に、大量化学療法と自家末梢血幹細胞移植を2回繰り返すこと(タンデム移植)で治療成績の向上を図ってきました。

 2004年から2008年の5年間にサムソン医療センターの1施設のみで、50人が、9コースの化学療法と手術後にタンデム移植を受けました(NB-2004)。1回目の移植の前治療は大量化学療法、2回目の移植の前治療には全身放射線照射が選択されました。その結果、5年無病生存率は67.5%と、たいへん有望な成績が得られました。しかし、低身長、腎機能障害、白内障などの全身放射線照射によると思われる晩期障害が問題となりました。

 そこで、2009年からは、全身放射線照射に代わって、大量I-131MIBG内照射を用いています(NB-2009)。2013年までの5年間に54人が治療されましたが、5年無病生存率は58.3%とNB-2004に匹敵する治療成績が得られました。一方、白内障、低身長、糸球体腎障害などの晩期合併症は有意に減らすことができたことから、その後の治療プロトコールも前治療には、I-131MIBG内照射を選択しています。

左から、名古屋大学 小島名誉教授、サムソン医療センター Sung教授、名古屋大学小児科 高橋教授
左から、名古屋大学 小島名誉教授、サムソン医療センター Sung教授、名古屋大学小児科 高橋教授

KIRリガンド不一致同種臍帯血移植を開発:名古屋大学の報告から

 名古屋大学小児科では、難治性神経芽腫を対象に、移植片対腫瘍効果を期待して、KIRリガンド不一致同種臍帯血移植を開発しました。難治性としては、1歳以上のステージ4の神経芽腫のなかでも、1)化学療法に反応が不良な場合、2)MYCN陽性例、3)10歳以上、のいずれかの予後不良因子を持つ場合と定義しました。

 化学療法による寛解導入と手術後に、ブサルファン/メルファランによる大量化学療法後に自家末梢血幹細胞移植をおこないました。その後、免疫療法としてフルダラビン/メルファラン/低容量全身放射線照射による前治療後にKIRリガンド不一致同種臍帯血移植をおこない、最後に腫瘍があった場所に局所放射線照射をおこないました。

 2008年から2014年までの間に26人が、このプロトコールで治療されましたが、全体としての3年無病生存率は73%臍帯血移植を含めてプロトコールを完遂できた21人では85.7%と、極めて有望な成績が得られました。特筆すべきは、臍帯血移植を受けた患者さんのなかで、再発した患者さんは1人のみでした。ほかの2人は、プロトコールを開始した初期に移植後の肺合併症で死亡しましたが、前治療法をフルダラビン/メルファラン/低容量全身放射線照射に変更した後は、死亡例は経験していません。

2008年3月から2014年12月までに名古屋大学病院を受診した18歳未満、ステージ4ハイリスク神経芽腫患者26名の診断からの無病生存率
2008年3月から2014年12月までに名古屋大学病院を受診した18歳未満、
ステージ4ハイリスク神経芽腫患者26名の診断からの無病生存率

再発神経芽腫に対する同種移植の試み


 再発した神経芽腫を治癒させることは極めて困難と考えられていますが、この難題に対して、移植片対腫瘍効果を期待して同種造血幹細胞移植による挑戦が試みられています。

ハプロ移植+免疫療法:ドイツテュービンゲン大学の報告から

 テュービンゲン大学では、再発/治療抵抗性の神経芽腫に対して、移植片対腫瘍効果を期待して、HLA半合致血縁ドナーからの同種造血幹細胞移植(ハプロ移植)をおこなっています。ハプロ移植については、移植片対宿主病(GVHD)を予防すると同時に、移植片対腫瘍効果を温存するために、細胞分離装置を使って、T細胞を選択除去しています。さらに、移植後の免疫療法として抗GD2抗体とインターロイキン2を併用投与しています。

 2009年以降、58人がこのプロトコールで治療されましたが、移植関連合併症による死亡例は3人のみで、3年無病生存率は45%と有望な成績が得られています。

左から、名古屋大学小児科 高橋教授、テュービンゲン大学 Handgretinger教授、名古屋大学 小島名誉教授
左から、名古屋大学小児科 高橋教授、テュービンゲン大学 Handgretinger教授、名古屋大学 小島名誉教授

大量I-131MIBG内照射+ハプロ移植:韓国サムソン医療センターの報告から

 サムソン医療センターでは、自家末梢血によるタンデム移植したのにもかかわらず、再発あるいは治療抵抗性の神経芽腫に対して、同種移植を含めた新規プロトコールを立案しました。

 再発例には、まず、次世代シークエンサーによるパネル遺伝子解析をおこなっています。解析した40%にパゾパニブやソラフェニブなどの分子標的薬の対象となる遺伝子変異が検出されていますが、分子標的薬を投与するには、企業治験にのるか、自費で薬剤を購入する必要があり、実際に投与できた患者さんの数は限られているようです。

 移植前治療には、大量I-131MIBG内照射を用いており、移植ドナーはテュービンゲン大学と同様にT細胞の選択除去をおこなったハプロ移植を選択していますが、抗GD2抗体は入手できません。これまでに、27人の再発例に、同種移植をおこないましたが、生存例は6人で、2年無病生存率は15%でした。

KIRリガンド不一致同種臍帯血移植:日本の多施設共同研究の報告から

 2010年から2017年の期間に、再発神経芽腫の15人が、上記の名古屋大学が開発した難治性神経芽腫に対するプロトコールを用いて治療されました。移植前に化学療法で完全寛解に至った11人のうち、6人は自家末梢血移植とKIRリガンド不一致同種臍帯血移植によるタンデム移植を、5人はKIRリガンド不一致同種臍帯血移植のみで治療されました。寛解が得られなかった4人についても、KIRリガンド不一致同種臍帯血移植のみで治療されました。

 15人のうち完全寛解に至った8人と、非寛解例の1人が無病生存しており、とりわけ、タンデム移植ができた6人は全例が病気の増悪なく生存しています。KIRリガンド不一致同種臍帯血移植は、再発神経芽腫の治療として、極めて有望と思われます。

進行期神経芽腫に対するKIRリガンド不一致同種臍帯血移植を導入するに至った経緯


 名古屋大学小児科高橋教授は、大学院、米国留学時代の研究テーマは、がんを免疫の力で治すことの追求、すなわち、腫瘍免疫でした。とりわけ、米国では腎臓がんが同種免疫で縮小するメカニズムを研究して、大きな成果を挙げています。しかし、小児には腎臓がんはみられません。そこで、帰国後に高橋教授から研究テーマの相談があった際に、小児においては、比較的症例数も多く、予後不良な進行期神経芽腫の治療をテーマに選ぶことをアドバイスしました。

 時期を同じくして、日本神経芽腫研究グループ(JNBSG)が発足し、名古屋大学にも高リスク神経芽腫に対する治療プロトコール研究への参加の呼びかけがありました。2006年のことです。しかし、提示された治療プロトコールの内容は、1990年代から名古屋大学でおこなっていたプロトコールと変わりませんでした。名古屋大学の経験では、そのプロトコールで治療された患者さんの無病生存率は、40%と満足すべき成績は得られておりませんでした。

 親交のあったテュービンゲン大学のHandgretinger教授からは、難治性神経芽腫の治療として、移植片対腫瘍効果を期待して、HLA半合致血縁ドナーからのハプロ移植を計画しているとの情報がありました。また、当時ニューヨークのスローンケタリングがんセンターから、4期神経芽腫の生存率が、NK細胞を抑制するKIR遺伝子とそのリガンドである自己のHLA遺伝子との不一致である患者で予後良好であるとの報告があり、KIRリガンド不一致非血縁ドナーから同種移植を行うことで再発が減少し、生存率が改善するのではないかと仮説をたてました。

 しかし、日本人のHLA型の頻度からは、家族内でKIRリガンド不一致ドナーを探すのは困難との判断から、HLAが一致していなくても移植可能な臍帯血ドナーに注目しました。当時から、日本においては、臍帯血バンクが整備されていたので、必要とする患者さんの90%にKIRリガンド不一致臍帯血を入手することが可能と推測できました。

 この様な背景から、名古屋大学では、全国の神経芽腫共同研究に加わらず、KIRリガンド不一致同種臍帯血移植による独自の治療研究を開始することになりました。

治療法が確立されていない難治性小児がんには、少数の施設によるパイロット研究が必要


 治癒率が50%を切る再発/難治性神経芽腫のような小児がんにおいては、新規治療法の開発が必要です。ここに示したサムソン医療センターやテュービンゲン大学は、わが国では利用できない大量I-131MIBG内照射やT細胞を選択除去したハプロ移植さらにはGD2抗体などを用いて、新規治療法の開発に挑戦しています。

 それ以上に驚くのは、韓国やドイツの人口は、日本の半分から2/3でありながら、これらの2施設には日本の多施設共同研究に肩を並べる患者数が集積されていることです。わが国でも、全国で15ヶ所の小児がん拠点病院が選定され、小児がん治療の拠点化が図られていますが、小児がん拠点病院といっても、年間の神経芽腫の患者さんの数は、2人から15人程度です。小児がんの種類によっては、全国の1〜2ヶ所の病院に、患者さんや研究機能を集約して、新規治療法の開発を図ることも必要かもしれません。




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