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神経芽腫に対するGD2-CAR-T細胞療法について research

2024.6.18

神経芽腫に対するGD2-CAR-T細胞療法について

名古屋大学大学院 医学系研究科 小児科学
教授 高橋義行

神経芽腫とは?

神経芽腫は0-15歳までの固まりをつくる小児がん(小児固形腫瘍)のなかで最も頻度が高い腫瘍です。

お腹にある腎臓の上に位置している副腎から発生することが多く、ついで背骨の横を走っている交感神経節から発生することがあり、お腹や胸の腫瘍として見つかることが多いです。

発熱、不機嫌、骨の痛み、お腹が腫れる、時には眼が飛び出たような症状など、転移した場所によってさまざまな症状がきっかけで見つかります。

赤ちゃんの時に神経の元になる神経芽細胞ががん化したものと考えられていて、年齢は1歳未満または2-3歳をピークに見つかることが多いのですが、年齢が1歳未満で見つかる場合は予後が良い一方で、1歳半以上で別の場所に転移している進行例や、腫瘍のMYCN遺伝子という部分に異常がある場合は生命予後が不良なので高リスク群として治療を強化しています。

高リスク神経芽腫の標準治療と予後

神経芽腫の治療は、年齢、転移の有無、予後因子(MYCN遺伝子、病理分類)などを組み合わせて、3つのリスク(低リスク群、中間リスク群、高リスク群)に分類し、それぞれのリスクに分けて治療されています。

低・中間リスク群の予後は約95%と良好で、腫瘍摘出外科療法または弱い抗がん剤の治療を行います。

一方で高リスク群は、抗がん剤による治療(化学療法)、腫瘍を摘出する手術療法、大量の化学療法のあとに自分の血液を作る血液幹細胞を戻す自家末梢血幹細胞移植まで組み合わせて治療します。

さらに残ってしまった腫瘍には放射線治療を行い、再発予防のための分化誘導療法の内服薬、GD2抗体治療などできる限りの治療を1年以上かけて行うことが一般的です。

これらすべての治療をしても、5年以上再発なく根治が得られるのは約50%とされています。

つまり半数程度の患者さんは再発してしまうのですが、再発した高リスク群の神経芽腫患者さんは、治すための治療法が世界中で確立されておらず、治すことはできないことを前提として痛みを抑える緩和目的の化学療法を行うことが一般的です。

GD2-CAR-T(カーティー)細胞療法とは?

近年、白血病や悪性リンパ腫では、骨髄移植後の再発例や、抗がん剤治療に抵抗例の患者さんに対して、患者さん自身の血液からリンパ球を分離し遺伝子操作をして、白血病を攻撃できるような細胞を作って患者さんに投与するCAR-T(カーティー)細胞が、欧米に続いて日本でも承認されています。

このCAR-T細胞療法は、がんを免疫の力で治す「がん免疫療法」に分類されます。

これまで世界で承認されたCAR-T細胞療法は、白血病などの血液腫瘍に限られていますが、固まりを作る固形がんに対しても様々なCAR-T細胞の研究開発が進められています。

2023年4月に、イタリアのローマにあるバンビーノ・ジェス病院から、再発・治療抵抗性高リスク神経芽腫に対するGD2-CAR-T細胞療法の治療成績が報告されました。

再発あるいは化学療法を受けるも寛解に至らなかった27人の神経芽腫患者を対象に、GD2-CAR -T細胞を投与したところ、9人で完全に腫瘍が消失し、他の8人でも50%以上の腫瘍縮小効果が得られました。

特にGD2-CAR-T細胞を投与される際に、腫瘍がある程度少ない患者さんに限定すると、治療後3年再発せずに元気でいる確率が約60%と驚くべき治療成績であり、しかも治療に伴う副作用については27人全例で重篤なものはなかったという報告でした。

本来は救命が困難な患者さんを対象としていながら、このGD2-CAR-T細胞療法の有効性と安全性の報告には世界中が驚きました。

日本からイタリアへGD2-CAR-T細胞療法を受けに行かれた再発神経芽腫患者さん

日本からイタリアへGD2-CAR-T細胞療法を受けに行かれた再発神経芽腫患者さん

名古屋大学病院で高リスク神経芽腫の治療を受けて再発してしまった9歳の女の子が、2024年3月にイタリアのバンビーノ・ジェス病院でGD2-CAR-T細胞治療を受けました。

報告にあるように再発した部分が少ない条件を満たしていたため、イタリアでGD2-CAR-T細胞治療を受けることができれば救命できる可能性が60%程度あるためです。

しかしながらイタリアで治療を受けるには、日本からの患者さんは医療保険制度を受けることができないため100%の医療費がかかります。

患者さんのご両親に名古屋小児がん基金の小島先生にお会いしていただき、渡航治療の一部を基金から支援していただけたので、イタリアでのCAR-T細胞治療を申し込みつつ、ご家族が残りの金額をクラウドファンディングで一般の方から寄付を募ったところ幸運にも支援が集まり、今回のイタリアでの治療が実現することができました。

なぜ日本の患者さんが海外に治療を受けに行く必要が?

本当は、日本でGD2-CAR-T細胞治療が受けられたら、イタリアの病院に行って治療する必要はありません。
なぜ日本の患者さんが治療のために海外に行く必要があったのでしょうか?

米国や欧州といった海外では使える薬や治療が、日本ではまだ使えない問題を「ドラッグ・ロス」や「ドラッグ・ラグ」と呼ばれます。

今回のGD2-CAR-T細胞も、日本人ではまだ一人も治療を受けた患者さんはいませんので、「ドラッグ・ロス」の状況と言えます。

日本国内はもちろん、海外でも日本人の患者さんがGD2-CAR-T細胞治療を受けたのは、今回イタリアで治療を受けた女の子が初めてだと思います。

名古屋大学小児科では、GD2-CAR-T細胞製剤を開発中で、試験管内やマウスでは神経芽腫細胞株を攻撃できるところまで開発が進んでいるのですが、まだ実際の患者さんに投与するには準備が足りておらず、今回の患者さんに間に合わせることはとてもできませんでした。

バンビーノ・ジェス病院を訪問

今回、イタリアで治療した患者さんのおかげで、バンビーノ・ジェス病院を訪問して、CAR-T細胞製造施設の見学や、フランコ・ロカテリ教授と面談して日本のGD2-CAR-T細胞治療開発や承認に協力をお願いすることができました。

1日でも早く日本でGD2-CAR-T細胞治療が実現できるように引き続き努力していきます。
名古屋小児がん基金のご支援にこの場をお借りして感謝申し上げます。




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