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重症再生不良性貧血の治療をめぐる話題~インド血液・輸血学会総会より~ research
第59回インド血液・輸血学会総会から
小島勢二
重症再生不良性貧血の治療をめぐる話題から
再生不良性貧血は、骨髄で血液が造られない(骨髄不全)ために、末梢血で赤血球、白血球、血小板のすべての血球が減少する(汎血球減少)病気である。造血幹細胞移植あるいは抗胸腺細胞グロブリン(ATG)とシクロスポリンの併用による免疫抑制療法によって造血の回復がみられなければ、感染症や出血で致死的な経過をたどる。
欧米では、年間の発症数は、人口100万人あたり2人程度で、大変稀な病気であるが、日本やインドを含め、アジア諸国の発症率は、欧米の3〜4倍ある。HLA一致血縁ドナーがいれば、血縁ドナーからの造血幹細胞移植が推奨されているが、ドナーが得られない場合が多く、ATGとシクロスポリンによる免疫抑制療法が選択される。しかし、免疫抑制療法に反応して造血の回復が得られるのは、50〜70%に過ぎず、過去30年間反応率の向上をめざして様々な試みが行われてきた。
このような研究を牽引してきたのが、米国NIH(National Institute of Health)とEBMT (European Group for Blood and Marrow Transplantation) で、今回の学会にはNIHとEBMTからそれぞれ、Neal YoungとCarlo Dufourが招待されシンポジウムで講演した。
エルトロンボパグの役割
エルトロンボパグはトロンボポエチン(TPO)という血小板を増やす効果のある造血因子の受容体に作用して血小板を増やす薬として開発されたが、未分化な造血幹細胞にも作用して造血を促進する働きもある。
この点に着目してNeal Youngは、免疫抑制療法に反応がみられなかった43人の再生不良性貧血の患者に本剤を投与したところ、7人(16%)に、血小板だけでなく、赤血球や白血球も含めた3血球系統の回復が得られたことを報告した。
しかし、投与開始から比較的短期間にのうちに8人に染色体異常が出現し、一部は白血病に移行した。さらに、31人の未治療の再生不良性患者に対してATGとシクロスポリンに6ヶ月間エルトロンボパグを併用したところ、29人(94%)と驚異的な反応率が得られたことも報告された。
一方、インドの研究者からは、最近(2018年10月)、米国のMDアンダーソン病院からの、ATG, シクロスポリン、好中球増加因子(G-CSF)にエルトロンボパグを併用した患者群と併用しなかった患者群との反応率を比較したところ、両群間で有効率に差がみられなかった研究の紹介があった。
Carlo Dufourは、現在EBMTではATG, シクロスポリンにエルトロンボパグ併用群と非併用群の比較試験(RACE study)が進行中であり、来年に結果の発表を予定しているとコメントした。会場から、小児に対するエルトロンボパグの適応について質問があったが、Carlo DufourはRACE studyにおいても、小児は含まれておらず、データが乏しいのでコメントできないと答えていた。
わが国では、昨年、成人の再生不良性貧血に対して、エルトロンボパグ(商品名:レボレード)が保険適応となった。2018年10月に開催された日本血液学会でも、各病院における使用経験が発表された。それらの発表をまとめると、長期の病歴がある患者を含む38例のうち、30~50%になんらかの反応がみられ、ほぼNIHからの報告と同様の成績であった。白血病への移行例も1例のみで、わが国でも期待できる治療法であることが示された。
重症再生不良性貧血に対する治療指針
これまで、重症再生不良性貧血にはHLA一致同胞がいれば骨髄移植を、いなければ免疫抑制療法を選択し、非血縁ドナーからの移植は、免疫抑制療法に反応がみられない場合に実施することが薦められてきた。
Calro Dufourは、ヨーロッパにおける治療成績を検討して、免疫抑制療法を受けることなく直ちに非血縁者間移植を受けた場合の生存率は、HLA一致同胞間移植の生存率に匹敵することから、非血縁ドナーが見つかるまでの期間が2〜3ヶ月以内であれば、家族内にHLA一致ドナーが得られない場合でも、免疫抑制療法を選択せずに、非血縁者間移植を選択することも考慮されるという新しい治療指針を発表した。
最近、私達が発表した、日本の小児再生不良性貧血の治療指針もスライドを使って紹介があった。わが国では、非血縁ドナーからの移植が受けられるまでに、5ヶ月かかることから、緊急の移植が必要な場合には、HLA不一致血縁ドナーからの移植(ハプロ移植)や非血縁臍帯血移植の選択も治療指針に示されているが、Calro DufourやNeal Youngは、これらの代替ドナーからの移植にはあまり積極的ではないようである。
懇親会で、Neal Youngから名古屋大学におけるハプロ移植や非血縁者間臍帯血移植の治療成績を質問されたが、全例で造血能が回復し、生存中であることを話したところ、その成績に驚いていた。
小児不応性貧血の見直しについて
小児不応性貧血(refractory cytopenia of childhood, RCC)は、小児にみられる骨髄異形成症候群(MDS)のsubtypeとして、2008年にWHOから新しく提案された疾患である。従来、わが国を含めて、RCCの多くは再生不良性貧血と診断されており、再生不良性貧血とRCCの鑑別は困難で、鑑別する意義についても研究者間で合意が得られていない。
今回、私は、RCCの講演を依頼されたので、わが国でこれまで得られたRCCに関する研究成果を紹介した。WHO分類では、成人MDSで(refractory cytopenia with multilinege dysplasia, RCMD)と分類されるsubtypeもRCCに含まれるが、再生不良性貧血との鑑別が必要な低形成骨髄像を示すRCCと正形成あるいは過形成骨髄像を示すRCMDとを分けるべきかについても結論が得られていない。
わが国では、2009年から名古屋大学を事務局として、小児骨髄不全症候群の中央診断がおこなわれている。過去7年間に骨髄不全症候群と診断された 939人のうち、21%が再生不良性貧血、41%がRCC, 22%がRCMDと診断された。再生不良性貧血、RCC, RCMDの患者間で、免疫抑制療法への反応率や生存率、さらに白血病への移行率に差はみられなかった。
一方、初診時に骨髄染色体異常や次世代シークエンサーを用いて検査した体細胞遺伝子変異は、再生不良性貧血とRCCでは頻度が低く、差もみられないが、RCMDでは、再生不良性貧血やRCCと比較して頻度が高いことが判明した。この結果から、RCCは従来の中等症や軽症の再生不良性に相当し両者を分ける必要はないが、一方、RCCとRCMDは異なる疾患として扱うべきである。
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