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遺伝性骨髄不全症の診断プロセス向上に期待 〜骨髄不全症における血球テロメア長の測定の意義〜 research
遺伝性骨髄不全症の診断プロセス向上に期待
〜骨髄不全症における血球テロメア長の測定の意義〜
小島勢二
名古屋大学大学院医学研究科小児科学の高橋義行教授、村松秀城講師、成田敦助教、三輪田俊介大学院生らの研究グループは、小児骨髄不全症133人に対して次世代シーケンサーを用いた網羅的遺伝子解析と血球テロメア長の測定を行い、テロメア長の測定が遺伝性骨髄不全症の診断に有用であることを報告しました。
骨髄不全症は骨髄の中で血液が作られなくなる病気で生まれつき遺伝子に異常のある遺伝性骨髄不全症と、自己免疫的な原因によって起こる後天性再生不良性貧血とにわけられます。遺伝性骨髄不全症は、骨髄異形性症候群や急性骨髄性白血病などの悪性腫瘍に移行する頻度が高く、がん化のメカニズムを知るうえでも大変重要な病気す。遺伝性骨髄不全症と後天性再生不良性貧血とでは治療法が異なるため、両者を区別することが重要ですが、遺伝性骨髄不全症の臨床症状は様々で、特徴的な症状がみられないこともあり確定診断が困難です。
テロメアはDNAの分解や修復から染色体を保護する役割があり、老化とともに短縮することから加齢性変化を示すマーカーとされています。遺伝性骨髄不全症のうち、遺伝性角化不全症はテロメアに関連する遺伝子の異常が原因であり、テロメア長の著明な短縮が特徴です。一方で、遺伝性角化不全症以外の遺伝性骨髄不全症や後天性再生不良性貧血においても、テロメア長の短い症例が報告されています。
今回の研究で133人の小児骨髄不全症患者のテロメア長を測定したところ、遺伝性骨髄不全症では後天性再生不良性貧血よりもテロメア長が有意に短縮していました。さらに、統計学的手法を用いて遺伝性骨髄不全症診断に有用な基準値を設定したところ、遺伝性角化不全症の91%、それ以外の遺伝性骨髄不全症の60%でテロメア長が基準値よりも短縮していることが示されました。これらの結果から、テロメア長の測定が遺伝性角化不全症だけでなく、そのほかの遺伝性骨髄不全症の補助診断としても有用であることが判明しました。
本研究成果は、ヨーロッパ血液学会(European Hematology Association)から発行されている 科学誌『Haematologica』に掲載されました。
<小島コメント>
骨髄不全症は小児がんとともに、名古屋大学小児科がもっとも力をいれている研究分野です。ファンコニー貧血などの遺伝性骨髄不全症は、小児に見られる骨髄不全症のうち、10%程度で、わが国における年間の発症数も10例程度で大変稀な病気です。特徴的な身体所見も見られず、後天性再生不良性貧血と診断されることも稀ではありません。遺伝性骨髄不全症では、後天性再生不良性貧血に有効な免疫抑制療法に反応が見られず、造血幹細胞移植の前治療も異なります。何よりも、がん化のリスクを念頭においたフォローアップが必要です。
遺伝性骨髄不全症の診断には、1)後天性再生不良性貧血との鑑別、さらに、2)どのタイプの遺伝性骨髄不全症なのかを診断することが必要です。これらの目的を達成するには血球テロメア長の測定と次世代シークエンサーによるパネル遺伝子解析が極めて有用であることが示されました。これらの検査は、わが国では民間の検査会社では行なっていないので、名古屋大学小児科の血液研究室が、全国の病院からの依頼に応じて行なっています。最近では、インドやタイ、ベトナムなどの海外からの検査依頼もあります。
114あるいは324個のがん遺伝子を対象とした遺伝子パネル検査は保険適応ですが、その検査費用は56万円と大変高額です。名古屋大学が行なっている遺伝子パネル検査では500個以上の遺伝子の検査が可能ですが、研究費で行なっており、患者さん家族の負担はありません。名古屋小児がん基金は、名古屋大学が行うこれらの遺伝子検査をサポートしています。
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