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遺伝子治療が本格化-第24回APBMT年次集会に参加 research

2020.1.5

第24回APBMT年次集会に参加して

遺伝子治療が本格化-第24回APBMT年次集会に参加
名古屋大学大学院 医学系研究科 小児科学
教授 高橋義行

22カ国から総勢1,500人に達する参加者

2019年度のAPBMT(Asia-Pacific Blood Marrow Transplantation Group)の年次集会が、8月30日から9月1日まで韓国のプサンで開催され、名古屋大学小児科からは高橋、成田、小島の3人が参加しました。

22カ国から総勢1,500人に達する参加者がありましたが、日本からの参加者は50人足らずでした。とりわけ、日本からの演題で口演発表に選ばれたのは、わずか1演題のみでした。それも、全国データを後方視的に解析した内容で、中国や韓国の大規模な移植センターが新規治療法を前方視的に検討した演題と比較すると残念ながら日本からの発表は見劣りしてしまいます。

海外では大規模な移植センターが主流

今回、世界の移植症例数がトップ8の施設名が発表されましたが、第1位は中国の北京大学で年間の移植数は800例に達し、しかも、そのほとんどが同種移植です。

年間造血幹細胞移植症例数(2017)

わが国における造血幹細胞移植の特徴は、多数の小規模な移植施設が存在することです。実際、日本全国で移植を行っている小児施設は70以上ありますが、その60%は年間移植数が10例以下の小規模な施設です。

名古屋大学小児科は、全国でも小児移植例数が1、2を争う施設ですが、それでも年間40例前後で、海外の小児移植センターの先生と話をすると症例が少ないねと言われてしまいます。全国の小児移植例数を合計しても、北京大学の症例数に敵いません

臍帯血移植やHLA不適合移植では、移植経験が豊かな大規模センターの方が移植成績は優れていることが知られていますし、移植を多く行っている施設でないと、自前でウイルスDNAモニタリングやキメリズム解析を整備することは困難です。

さらに、難治性ウイルス感染症に対する特異的細胞傷害性T細胞療法やGVHD治療としての骨髄間葉系幹細胞などの細胞療法を実施することもできません。CAR-T療法も、中国では移植施設が自施設で製造しています。名古屋大学小児科は、これらの検査や治療が全て自前でできる国内唯一の施設です。

遺伝子治療が本格化-第24回APBMT年次集会に参加
小島名誉教授の講演

遺伝子治療が本格化

日本では、脊髄性筋萎縮症(SMA)に対する遺伝子治療薬(ゾルゲンスマ)が、2億円を超える藥価で発売されるのではないかと話題になっていますが、製薬会社の販売するこのような高額な遺伝子治療薬の購入は困難であることから、アジアの先端的な施設では、自前で遺伝子治療の開発を行っています

南インドのVelloreにあるCristian Medical Collegeでは、米国アトランタにあるEmory大学と共同してレンチウイルスベクターを用いて血友病Aに対する遺伝子治療の治験を行い、もうすぐ米国とインドで承認されそうだという話を遺伝子治療のセッションで聞いて驚きました。

血友病の遺伝子治療は、日本でも海外の製薬会社がAAVベクターによる遺伝子治療の治験を、近々、開始する予定です。AAVベクターによる遺伝子治療は年齢制限がありますが、レンチウイルスベクターでは、10歳以下の小児も適応となるようです。

タイのマヒドン大学では、米国のベンチャー企業によるサラセミアの治験に参加していましたが、今後は、自前で開発したレンチウイルスベクターを用いた遺伝子治療の臨床研究を開始するとのことでした。

日本では、臨床に用いるレンチウイルスベクターの開発が遅れ、いまだに遺伝子治療用レンチウイルスベクターを製造できる施設が整備されていません。今回の、学会に出席して、遺伝子治療の時代の到来とわが国のこの分野における遅れを感じました。わが国も、少しでも早く対応しなければなりません。




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