LECTUREDr.小島の小児がん講座
次世代シーケンサーと分子標的治療 lecture
次世代シーケンサーと分子標的治療:網羅的遺伝子診断(2)
小島勢二
がんの診療における遺伝子診断の意義
がんの診療における遺伝子診断の意義について、考えてみたいと思います。人間はたくさんの細胞でできています。1つ1つの細胞が設計図、すなわち、遺伝子を持っています。1つの細胞が持つ遺伝子情報は60億文字、本4万冊分にもなります。
細胞は増える時に、設計図を書き写しますが時々間違えます。まずい間違い、すなわち細胞の増殖に有利なような間違いをするとがんになります。このようにがん化を起こす遺伝子はがん遺伝子あるいはがん抑制遺伝子と呼ばれています。がん遺伝子は、ある正常な遺伝子が変異して、その発現や機能に異常をきたし、正常な細胞のがん化を促進する遺伝子です。一方、がんの発生を抑制するタンパク質の機能が阻害されてもがん化が起こりますが、これらのタンパク質をコードする遺伝子はがん抑制遺伝子と呼ばれます。
がんはいくつかの間違い、すなわち遺伝子異常を持っています。その遺伝子異常は人によっても違います。これまでは、そのうちよく見つかる遺伝子異常のみを検査していました。
今までの検査では1度に調べることができる情報量は1000文字、本2ページ分程度でした。これが、次世代シーケンサーを用いれば、1度に1兆文字、国立国会図書館にある蔵書の半分ほどの情報量を調べることができるようになりました。すなわち、人にある2万個の遺伝子全てを一度に調べることができるようになりました。
分子標的治療:遺伝子異常ごとによく効く治療
全部の遺伝子を調べることで正しい診断が得られる可能性が高くなりました。見つかった遺伝子異常ごとによく効く治療があります。これを分子標的治療と呼びます。
私たちも、治療に難渋する急性リンパ性白血病の遺伝子を次世代シーケンサーで網羅的に調べることでMEF2D-BCL9という融合遺伝子を世界に先駆けて発見しました。この遺伝子異常があるとステロイドが効かなくなりますが、従来白血病の治療には使われない他の種類の抗がん剤が効くようになりました。
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