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多発性骨髄腫や急性骨髄性白血病、神経芽腫もCAR-T細胞療法の対象に~第1回ヨーロッパCAR-T会議2019~ research
第1回ヨーロッパCAR-T会議2019の報告から
特任講師 西尾信博
第1回欧州キメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞(CAR-T)療法の会議が、2019年2月14日から16日までフランスのパリで開催されました。名古屋大学からは、西尾が研究発表と情報収集のために参加しましたが、日本からの参加者は私を含めて2名のみでした。
今回、このような会議が行われることになった背景には、昨年、米国に続いて欧州においても2つのCD19CAR-T細胞製剤が承認されたことがあります。その2つとは、ノバルティス社の「キムリア」(急性リンパ性白血病と悪性リンパ種に対して承認)とKite社/ギリアド社の「イエスカルタ」(悪性リンパ腫に対して承認)です。今後は欧州各国で、この2つの製剤の「保険診療」による使用が急速に広まっていくことが予想されます。
血液疾患に対するすばらしい新規治療オプションが登場した一方で、CAR-T療法は特異な性質を持つ治療法であるため、幾つかの問題もあることが認識されているます。今回の会議の目的は、最新のCAR-T療法について学ぶとともに、そういった問題点についても議論することが目的でした。なお、私は、名古屋大学で開発を進めているPiggyBacトランスポゾン法によるCAR-T細胞療法の開発状況を発表しました。
多発性骨髄腫や急性骨髄性白血病、神経芽腫もCAR-T療法の対象に
この会議には、米国で臨床試験を牽引している著名な医師が招待され、CD19CAR-T療法に関する最新結果を報告したほか、今後実用化が予定されている多発性骨髄腫、急性骨髄性白血病に対する新規CAR-T療法の研究の進捗状況が発表されました。欧州からもイギリス、スペイン、イタリアなどの施設から、CD19CAR-Tのほか、神経芽腫を対象にGD2を標的としたCAR-T療法の臨床試験結果が報告され、 注目されました。
CAR-T療法は発展途上の医療
今回の会議では臨床試験、基礎研究の発表は半数程度であって、1)どのような患者に対して使うのが正しいのか、2)特殊な副作用をどうやって管理するか、3)治療チームをどうやって組織するか、4)増大する医療費をどのように対処するか、などについての発表が多くみられました。CAR-T療法はまだ発展途上の医療であり、これらの課題について継続して議論していく必要があることが強調されていました。
アカデミアの役割
CAR-T療法の今後を考える重要なメッセージとして、企業が販売するCAR-T製剤に頼るだけでは今後のCAR-T療法の発展には不十分であり、投与量や投与間隔の工夫、他の治療法との組み合わせ、より希少ながんに対してのCAR-Tの開発など、アカデミアの果たす役割が強調されました。わが国でも「キムリア」が間もなく保険収載される予定で欧州と状況が似ており、アカデミアでのCAR-T開発を加速する必要があると思われます。
ヨーロッパにおけるCAR-T療法の現状
ヨーロッパにおける566の施設を対象にしたCAR-T療法の現状についてのアンケート調査の結果が発表されました。22ヶ国の134施設から回答が寄せられましたが、34施設ではすでにCAR-T療法を開始しており、57施設においても今後6ヶ月以内にCAR-T療法を開始する予定です。
これまでに、CAR-Tが投与された患者数は351人で、そのうち93%は臨床研究として治療されています。すでに、20人以上の治療経験がある施設が5施設、10から20人が7施設あります。18歳以下の小児が37%、成人が63%で、対象疾患は急性リンパ性白血病が42%、悪性リンパ腫が34%と大部分を占めますが、5%が多発性骨髄腫でした。骨髄移植チームが担当することが多いのですが、あらたにCAR―T療法を専門とするチームを結成した施設もみられます。
現在、ヨーロッパで行われている37の臨床研究のうち、18は製薬会社が主導し、19はアカデミア主導で行っています。自施設でCAR-T製剤を製造している7施設のうち、すでに3施設は、自動CAR-T細胞製造機器(CliniMacs Prodigy)を使用しています。アカデミアの臨床研究のうち、5つは神経芽腫や大腸がん、頭頸部がんなどの固形腫瘍を対象としています。
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