RESEARCH最新の研究内容
CAR-T療法治験・臨床試験報告と今後の課題~日本血液学会総会の報告から~ research
第80回日本血液学会総会が、2018年10月12日から14日の3日間、大阪で開催されました。日本血液学会総会は、血液関係ではわが国最大の学会で、参加者は7,000人に達します。一般演題も1,300を超え、それに、50を超える教育講演、70の企業が主催する講演があります。11のシンポジウムには、海外から招待された演者も多数参加しました。
今回は、CAR-T療法や名古屋大学小児科からの発表に焦点を絞って報告します。
CAR-T療法をめぐる話題
教授 高橋義行
ノバルテイス社:CD19CAR(キムリア)の治験報告
ノバルテイス社は、非寛解期のB細胞型急性リンパ性白血病を対象に、CD19CAR(キムリア)の治験を実施しました。11国から登録された92人の患者(25歳以下)が治験に参加しましたが、日本からの3人も含まれています。実際にCAR-T細胞が投与できたのは75人で、2人の日本人も治療を受けることができました。
CAR-T細胞投与開始後、3ヶ月の時点で81%に寛解が得られましたが、その後再発する例もあり、6ヶ月、1年後の無病生存率は73%,50%でした。副作用としてサイトカイン放出症候群が77%,神経障害が40%にみられました。
京都大学:CD19CAR(キムリア)の拡大治験報告
京都大学小児科の平松英文先生は、ノバルテイス社の治験に参加した3人の他、拡大治験に参加した6人を加えて、日本人小児9人の試験結果を報告しました。日本で採取したリンパ球が米国に輸送され、CAR-T細胞として返送されて来るまでに6〜8週間必要とするので、この間の全身状態や白血病細胞のコントロールが重要のようです。
治験に参加した9人のうち、実際にCAR-T細胞を投与できたのは6人でした。6人のうち、4人が寛解を維持しています。副作用としては、5人にサイトカイン放出症候群や骨髄抑制がみられましたが、管理可能でした。
シドニー大学:piggyBacトランポゾン法CD19/CAR-T療法の臨床試験報告
piggyBacトランポゾン法CD19/CAR-T療法の臨床試験報告
1)全例成人で、HLA一致移植ドナー由来CAR-T=CD19-CAR搭載ドナーリンパ球輸注
2)4週以上あけて、3回投与する(dose escalation)
3)8例中8例で有効(寛解に入った)
4)サイトカイン放出症候群は起きたものの、とてもマイルドで死亡例はない
5)piggyBac法に由来するかもしれない予想外の副作用はない
2日目に開催された “がん免疫療法の新たなる報告性” とういシンポジウムで講演された、オーストラリア、シドニー大学のDavid Gottlieb先生は企業治験ではなく、遺伝子導入にpiggyBac法を用いて自施設で開発したCAR-T細胞療法の臨床試験の結果を報告しました。
これまでのCAR-T療法の多くは、患者さん自身、つまり自分のリンパ球を用いていましたが、シドニー大学では、HLA一致血縁ドナーのリンパ球からCD19CAR-T細胞を製造しています。つまり、ドナーリンパ球輸注にCAR-T細胞を用いたのが新しい点です。投与回数も、1回のみでなく、4週間以上あけて3回投与しています。対象は移植後の再発症例ですが8例全例で寛解が得られ、他人の細胞でありながらサイトカイン放出症候群も軽度で副作用による死亡例はありませんでした。
白血病の治療におけるCAR-T療法の出番
米国ジョージワシントン大学のCatherine Bollard先生は、白血病の治療におけるCAR-T療法の出番について言及しました。
1)化学療法による寛解導入後にCAR-Tを投与して治癒をめざす。
2)化学療法後にCAR-Tによる強化療法をおこない、さらに造血幹細胞移植をおこなう。
3)再発後にCAR-Tを投与して治癒を目指す。
4)造血幹細胞移植後にCAR-Tを投与する。
などが考えられるが、どのようなCAR-Tの使い方が最も有効であるかは治療コストも考慮しなければならないと述べています。
同種ドナー由来のリンパ球から製造したCAR-Tの研究
米国スローケタリングがんセンターのMarcel van den Brink先生も、同種ドナー由来のリンパ球から製造したCAR-Tの研究をおこなっています。動物実験のレベルですが、心配されるGVHDも軽度のようです。今後のCAR-Tの改良としては、CD19抗原だけでなく、複数の抗原を標的としたCAR-Tやサイトカイン放出症候群などの副作用への対策として、自殺遺伝子を組込んだCAR-Tの作成などの前臨床試験をおこなっています。
CAR-T製造原価は150万円
小島勢二
重篤な副作用の頻度や再発率を考慮し、更なる研究が必要
京都大学からの報告は、日本人においても、これまで米国から報告されたCAR-Tの治療成績とほぼ同じ結果であり、期待できる治療法であることが示されました。しかし、重篤な副作用の頻度や再発率を考慮すると、CAR-T療法は決して夢の治療法でなく、その有効な用い方については更なる研究が必要と思われます。
超高額なバイオ製剤に対するひとつの方向性
副作用が少なく、再発を防ぐには、寛解期の投与、CD19以外の抗原を標的としたCAR-Tの併用、さらに複数回投与などが考えられますが、一回の投与で5,000万円を超えるという超高額な価格が、今後の臨床研究を進めるうえで障害となるでしょう。
一方、シドニー大学は、名古屋大学と同様のpiggyBac法で遺伝子導入した自施設で製造したCAR-T細胞を用いています。これまで、piggyBac法で製造したCAR-T細胞を実際に臨床に用いた報告がなかっただけに、シドニー大学の報告は私達を勇気づける結果です。CAR-Tの製造コストも、piggyBac法でしかも自施設で製造しているので、150万円で済むようです(アカデミアによる提供のため、製造コストには人件費、設備の減価償却費用は含まれていません)。企業の製造した製品を購入するのでなく、自分達の患者のために自施設で製造する、超高額なバイオ製剤に対するひとつの方向性と思います。
次回の投稿は「骨髄不全症の診断に網羅的遺伝子解析が有用~日本血液学会総会の報告から~」
名古屋大学医学部附属病院 講師 村松秀城 先生の発表です。
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