RESEARCH最新の研究内容

小児固形腫瘍における RNA シーケンスの有用性を評価 research

2021.8.3
名古屋小児がん基金理事長/名古屋大学名誉教授
小島勢二

名古屋大学大学院医学系研究科小児科学の高橋義行教授、村松秀城講師、同大医学部附属病院小児がん治療センターの奥野友介病院講師、病理部の下山芳江准教授、名古屋医療センター小児科の市川大輔医員、埼玉県立小児医療センター臨床研究部の中澤温子部長らの研究グループは、小児固形腫瘍のうち、特に肉腫が疑われた患者において包括的遺伝子解析を行い、その成果を報告した。

小児固形腫瘍における RNA シーケンスの有用性を評価

小児固形腫瘍は、多種多様な 100 以上のサブタイプに分かれている一方、実際には異なる腫瘍であるにも関わらず互いによく似た病理所見が認められる症例や、非典型的な病理像をとる症例がしばしば存在することから、現在でも病理組織学的診断が困難な腫瘍群である。本研究グループは、小児固形腫瘍の診断プロセスに次世代シーケンサーを用いた RNAシーケンスを含めることの有用性を評価するために、小児固形腫瘍が疑われる患者 47 人に RNA シーケンスを実施した。

小児がんを専門とする複数の病理医により病理標本を再評価したところ、42 人の患者は既知のサブタイプの固形腫瘍と診断された一方、5 人の患者は特定の病理診断に至らず「未分化肉腫」に分類された。これらの患者検体を用いて RNAシーケンスを行った結果、これまでに報告されたことのない SMARCA4-THOP1 融合遺伝子が発見された1人を含め、23 人の患者で診断に有用な遺伝子変異が検出された。とりわけ、病理診断が「未分化肉腫」にとどまった5人の患者のうち4人で診断的な遺伝子変異が確認され、明確な診断に至った。これらの結果から,RNAシーケンスを用いた遺伝子解析は,小児固形腫瘍の診断ならびに将来の治療戦略の開発に大変役立つことが明らかとなった。なお、本研究結果はnpj Genomic Medicineに掲載されている。

RNAシーケンスで診断がついた未分化肉腫の5例

小島コメント

小児がんには、小児がんが専門の病理医にとっても、診断困難な希少がんが少なくはない。このようながんは、病理医からは小円形細胞腫や未分化肉腫とレポートされることが多いが、臨床医にとっては、原発臓器も分からず、治療法の選択が困難である。今回の研究では、このように診断困難な希少がんの診断に次世代シーケンサーによるRNAシーケンスが極めて有用であることが示された。検出可能な融合遺伝子が限られているがんパネル検査ではこのようなことは期待できない。

名古屋大学では、診断目的にRNAシーケンスを、分子標的薬の標的遺伝子変異の検出目的に全エクソームシーケンスを用いているが、2つの検査を行うに必要な実費は15万円ほどである。この検査は保険適用となっていないので、研究費で賄うほかなく、名古屋小児がん基金もその費用の一部をサポートしている。




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