LECTUREDr.小島の小児がん講座
新型コロナウイルスの診断法と臨床経過 lecture
新型コロナウイルスの診断法と臨床経過:新型コロナウイルス感染症の基礎から臨床(4)
小島勢二
新型コロナウイルスの診断法
現在用いられている新型コロナウイルスの診断法には、ウイルス遺伝子を検出するPCR検査、ウイルスのタンパク質を検出する抗原検査、血中の抗体を調べる抗体検査があります。
PCR検査と抗原検査の検体は鼻咽頭粘液や唾液で検査します。抗体は血液検査です。PCR検査・抗原検査は現在、感染しているかを調べる目的で検査しますが、抗体検査では、過去に感染したことがあるかがわかります。判定までにかかる時間は、PCR検査では、数時間、抗原検査は30分ほど、抗体検査は10~15分です。
胸部CTでは、スリガラス陰影が特徴的です。
新型コロナウイルス感染症の臨床経過
新型コロナウイルス感染症の臨床経過を示します。発症後、1週間程は、かぜ症状や臭覚・味覚障害がみられます。80%の患者さんは、軽症のまま経過します。20%の患者さんは、発症後1週間から10日頃に、呼吸困難や咳・たんなどの肺炎症状が増悪し、入院を必要とします。さらに、5~10%は、人工呼吸管理のため、集中治療室での管理が必要となります。全体の3~5%の患者さんが致命的となります。
新型コロナウイルス感染症の特徴的な臨床経過は、患者さんの80%は自然軽快し良好な経過をたどりますが、20%の患者さんは肺炎症状を呈し、うち、5~10%は急速に症状が悪化して、人工呼吸管理を必要とする重症例に進展することです。この急激な症状の悪化は、ARDS,急性呼吸窮迫症候群を発症したことによります。
ARDSとは、高サイトカイン血症等が原因で、肺の毛細血管漏出が亢進して血液中の成分が肺胞内に移動して、肺水腫をおこした状態です。すなわち、空気中にいるのにもかかわらず、水に溺れた状態で、全身の組織が酸欠状態となり、臓器不全に陥ります。
急性肺炎発症時とARDSに進行した時期の胸部CT像と肺組織の病理像です。ARDSに移行すると、肺胞壁を形成する肺胞細胞が剥離して、硝子膜が形成されて、肺浮腫がみられます。
新型コロナウイルス感染症の治療ターゲットとしては、ウイルス感染、高サイトカイン血症、毛細血管漏出が挙げられます。抗ウイルス薬としては、アビガン、レムデシビル、プラケア、カトレアなどが治療薬の候補となりましたが、このうち、レムデシビルのみがわが国では、薬事承認されています。
レムデシビルの臨床試験の結果
レムデシビルの臨床試験の結果です。症状が改善するまでの期間は、レムデシビル群の11日がコントロール群の15日と比較して統計学的に有意に短縮しましたが、生存率については、両群間で有意な差はみられませんでした。なお、レムデシビルは重症度によって効果に違いがあることが示されましたが、侵襲的、非侵襲的を問わず陽圧換気を必要とする重症患者は、死亡率、回復までにかかる日数から見ても、全く効果が見られていません。最近、WHOが行った大規模な無作為割付試験でも、レムデシビルの有効性は確認されませんでした。
わが国では、レムデシビルの治療対象となるのは、気管内挿管など侵襲的人工呼吸管理や体外式膜型人工肺(ECMO)による治療が必要な重症患者に限定されましたが、このグループにレムデシビルを投与しても効果は期待できません。海外では、重症患者に対するレムデシビルの単剤治療は勧められていません。これまでのところ、ウイルスの消失効果があることを確認できた薬剤はありません。
血管漏出に対して開発された唯一の治療薬「FX06」
残るは、血管漏出阻害薬ですが、FX06は血管内皮細胞の機能不全を改善し、毛細血管漏出を阻害する作用があります。血管漏出を抑えることで、肺炎からARDSへの移行の防止が期待されます。FX06は血管漏出に対して開発された唯一の治療薬です。
新型コロナに感染して、人工呼吸管理が必要だった患者さんがFX06の投与により呼吸機能が改善して救命されたことが報告されました。
さらに、ヨーロッパで人工呼吸管理が必要であった6例の重症コロナ肺炎患者に本剤を投与したところ、全例で肺機能の改善が得られ、うち4例は生存中と有望な結果が報告されています。
現在ヨーロッパでは、ECMOや人工呼吸器で治療中の患者さんを対象にFX06群とプラセボ群の比較試験が始まっています。わが国でも本剤の臨床試験の実施が望まれます。
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