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進行期神経芽腫:抗GD2抗体投与による生存率の向上 research

2019.2.14

 今回は、日本小児がん研究グループ(JCCG)の神経芽腫委員会(JNBSG)が2007年から2009年におこなった臨床研究(JN-H-07)の結果について発表した論文と、ヨーロッパにおける神経芽腫研究グループ(SIOPEN)が2009年から2013年に行った抗GD2抗体併用療法の結果、名古屋大学で行った医師主導治験の結果についてご紹介します。

名古屋小児がん基金 理事長/名古屋大学 名誉教授
小島勢二

進行期神経芽腫(JN-H-07)臨床研究結果 ~日本神経芽腫研究グループの最新報告~

進行期神経芽腫の治療成績に大きな改善なし

 “ International Journal of Clinical Oncology“という日本がん治療学会が発行する医学雑誌の2018年10月号に”Results of a phaseⅡtrial for high-risk neuroblastoma treatment protocol JN-H-07: a report from the Japan Childhood Cancer Group Neuroblastoma Committee (JNBSG)”というタイトルの論文が掲載されました。全国組織として2014年12月に新たに発足した日本小児がん研究グループ(JCCG)の神経芽腫委員会(JNBSG)がおこなった臨床研究(JN-H-07)の結果です。

 1歳以上の進行期 神経芽腫(Neuroblastoma)は、たいへん予後不良な疾患で、頻度も比較的多い疾患なので、小児がんのなかでは、急性リンパ性白血病についで亡くなる患者の絶対数が多い病気です。

JN-H-07研究(2007~2009年)

 2007年から2009年に50人の進行期神経芽腫の小児が研究に参加しました。今回の治療プロトコールでは、全例が手術後に移植を含む大量化学療法と放射線療法を受けていますが、3年無病生存率はMYCN陽性例で45%、 MYCN陰性例で30%、トータルでは37%でした。残念ながら、この20年間のわが国の進行期神経芽腫の治療成績は、大きな改善はみられていません。

 おもに、神経系細胞の増殖制御に関わる遺伝子で、この遺伝子の増幅がみられる神経芽腫は再発のリスクが高く、予後不良です。

JANB85研究(1985年~1990年)

 わが国では、1歳以上の進行性神経芽腫を対象に、20年以上にわたって、全国レベルの多施設共同研究がおこなわれてきました。1985年から90年にかけておこなわれたJANB85研究では80人を対象に化学療法に加えて、1/3の患者には自家骨髄移植を含む大量化学療法が併用されました。その結果、MYCN陽性例の22人の5年無病生存率は23%、MYCN陰性例でも33%でした。

 たとえ病気がコントロールされていなくても生存している状態(全生存率)と区別するために、完全に病気がみられず生存している状態を示すのに無病生存率を用います。

JANB91研究(1991~1998年)

 1991年から98年に行われたJANB91研究には総計221人と多数例が研究に参加しました。MYCN陽性例88人の72%に大量化学療法が併用されたことで、5年無病生存率は36%と改善がみられましたが、MYCN陰性例の133人においては、5年無病生存率は32%とJNB85研究と比較して改善はみられませんでした。

海外の進行期神経芽腫の治療成績

イソレチノイン酸 + 免疫療法(抗GD2抗体投与)

 2018年の5月にサンフランシスコで神経芽腫に特化した国際学会(ANR2018)が開催され、わが国での今後の進行期神経芽腫の治療法を考えるうえで大変参考になる治療成績が報告されました。

 ヨーロッパにおける神経芽腫研究グループであるSIOPENでは2009年から2013年の間に、378人の進行期神経芽腫を対象に、化学療法、手術、移植を含む大量化学療法、放射線療法、イソレチノイン酸に加えて免疫療法として抗GD2抗体を投与しました。

 ビタミンAの誘導体ですが、高リスク神経芽腫に対して、大量化学療法後に投与すると再発率が低下することが示されました。(3年無病生存率、投与群:46%,非投与群:29%)欧米では標準的な治療薬ですが、わが国では未だに承認されていません。

 神経芽腫の細胞膜表面に発現する糖脂質に対する抗体。米国において比較試験がおこなわれ、抗GD2抗体投与の2年無病生存率(66%)は非投与群(46%)と比較して、有意に優れることが示されました。

抗GD2抗体併用群では生存率が向上

 抗GDが抗体の投与されなかったコントロール群(466人)の5年無病生存率が42%と今回のJNBSGの治療成績(37%)と変わりませんでしたが、抗GD2抗体併用群では、57%と統計学的に有意に生存率の向上がみられました

 ヨーロッパにおける神経芽腫研究グループ(SIOPEN)のこの治療成績は、以前の米国から報告を裏付ける結果です。この治療成績をもって、2017年5月に、ヨーロッパにおいては、抗GD2抗体が難治性神経芽腫の治療薬として薬事承認されました。

名古屋大学が実施した抗GD2抗体の治験結果

9例中8例が2年以上、腫瘍の進展なく生存

名古屋大学における難治性神経芽腫への取り組み

 名古屋大学においても、抗GD2抗体の導入を意図し、単施設で医師主導治験を実施しました。このように、医師や歯科医師が、自ら治験を実施することを医師主導治験といいます。以前は、新薬の薬事承認は製薬会社のみに認められていましたが、小児がんの治療薬のように、患者数が少なく売り上げが期待できない場合は、薬の開発を手掛ける製薬会社を見つけることが困難でした。そこで、2003年から、医師や歯科医師が治験をおこない、医薬品の開発をおこなうことが可能となりました。

抗GD2抗体医師主導治験の開始:名古屋大学

 まず、日本では、唯一のSIOPENの参加施設の認定を取った後、再発あるいは初回治療に抵抗性の9例を対象に第1相試験を行いました。心配した副作用も比較的軽微で、驚いたことに1例を除いて、残りの8例が治療開始から2年以上、腫瘍の進展もなく生存中です。

 SIOPENの結果に名大の結果をあわせて(Bridging)、わが国での薬事承認の申請を目指しています。わが国における神経芽腫に対する抗GD2抗体の治験は終了しており、一刻も早い薬事承認を待ち望んでいます。




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