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【参加報告】ベトナム血液学会 2018 research
ベトナム血液学会 参加報告
講師 村松秀城
名古屋小児がん基金から旅費を援助いただき、2018年8月30日、31日の二日間にわたってフエで開催されたベトナム血液学会に、参加してきましたので報告いたします。
セントレア空港からホーチミンシティで乗り換えてフエに到着しました。フエ空港から国道1号線をひたすらまっすぐ車で30分ほど進むと、学会が開催されたフエ中央病院がある市の中央部です。ほとんど信号がなく、大きな交差点を歩いて渡るのは少しコツが必要です。学会前日の8月29日夕方に到着し、血液検査部のホア先生、若手のキムホア先生、St.Jude 小児研究病院の稲葉先生、成育医療センターの加藤先生、菱木先生、国際医療研究センターの七野先生、アジア・チャイルドケア・リーグ(ACCL)の渡辺さんと一緒に、ベトナム料理をいただきました。
学会初日:固形腫瘍セッション
学会初日は、固形腫瘍のセッションが続きました。腎芽腫、胚細胞腫瘍、脳腫瘍、神経芽腫、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、骨肉腫などについて、シンガポールの先生が、疾患のレビューをしてくださり、自分も大変勉強になりました。その後、ベトナムの主要施設の先生方が、各疾患のベトナムにおける現状を発表する、というのが主な内容でした。
横紋筋肉腫のレビューは、フランス・アメリカの先生が担当でした。神経芽腫は、菱木先生が日本の治療について報告してくれました。神経芽腫については、カンボジアの先生からも発表がありました。カンボジアは本当に大変な状況で、MIBGシンチはおろか、VMA/HVA、NSEなどの腫瘍マーカーも存在せず、生検針も入手困難、時には診断がつかないまま固形腫瘍の治療を開始せざるを得ないことも多いとのことでした。
学会初日の夜はガラ・ディナーが開催されました。会場は、宿泊したSaigon Morian Hotelの中庭でした。フランス植民地時代の1901年創立のcolonial styleの建物で、何度も泊まりたくなるような素晴らしいホテルでした。樹齢100年を超える大きな木が植わった中庭で楽器・歌などの生演奏が続くなか、同席したアメリカ・ベトナムの先生方、St.Jude 小児研究病院の稲葉先生、現在カンボジアで医療貢献をしている元静岡県立こども病院の嘉数先生と、貴重な交流ができました。
学会2日目:若年性骨髄単球性白血病の分子生物学的研究の発表
学会2日目は、オープニング・セッションで大勢の先生方のご挨拶、ACCL・製薬会社等の寄付団体への表彰、私も含め外国招待演者の紹介がありました。日本のEsiteという会社の大野さんという方が、定期的に学会に参加されており、DICOM画像共有システムを提供することで、画像読影支援に協力している旨、発表がありました。JCCGの固形腫瘍画像中央診断でも用いているシステムで、大変役に立っているようです。フエ中央病院の小児科病棟にも、支援を受けて画像アップロード用の端末が置かれていました。
カンボジアで医療貢献をしている嘉数先生が、カンボジアで4つ目の小児がん診療施設の立ち上げについて話をしてくださいました。昨年から、なんと無給で働いておられるとのことで、その熱意に本当に頭が下がりました。 悪性リンパ腫のセッションも午前に開かれました。UCSFの先生が再発悪性リンパ腫の治療の概要をお話してくださいました。ベトナムでも、病院によってはFISH、RT-PCRにより分子学的な検討を行い、きちんと腫瘍分類を行って悪性リンパ腫・白血病の治療にあたっている現状が報告されました。一方、バーキットリンパ腫等では10%以上の治療中感染症死亡が報告されていました。各国の状況に応じて、治療強度減弱について検討が重要であることについてもディスカッションがありました。
2日目の昼過ぎに、村松は若年性骨髄単球性白血病の分子生物学的研究の発表をしました。発表後に好評な意見をベトナムの先生からも沢山いただけたので、ほっといたしました。稲葉先生が、St.Jude 小児研究病院での急性リンパ性白血病の取り組みについて、わかりやすく概要を説明してくれました。簡単なフローサイトメトリーによる微小残存腫瘍(MRD)の測定など、発展途上国でもすぐに取り入れられる有益な内容も含めて話してくださいました。
ベトナムの小児血液がん分野の進歩のためには、どのような努力が必要か
初日の最後・2日目の途中で、ベトナムの小児血液がん分野の進歩のためには、どのような努力が必要か、ということについて会議が2回も開かれました。アメリカ・フランス・日本の先生方が長年にわたりベトナムの小児血液がん疾患への支援を続けておられること、St.Jude 小児研究病院 VIVA フォーラムを通じてSt.Jude 小児研究病院稲葉先生やシンガポールのアレン先生らも協力をしていることがよく理解できました。
ただ、多くの国・施設からの支援があるものの、うまく機能的に組み合わさっていないのが問題ではないか、という議論がありました。現地医師・スタッフの教育を通じて医療レベルを上げていくのが効果的ではないか、短期間のフェローシップの受け入れを目指して、資金確保・教育プログラム作りができれば、という提案が各国医師からの総合意見としてアメリカの先生から発表がありました。
2日目午後のセッションをすこし抜けさせていただき、小児血液がん病棟、新設された移植病棟、血液検査室の見学をしました。BD社のFACSCantoが設置され、専任の技師さんが20種類の表面抗原の解析をしています。DNA・RNAの抽出を、Qiagen社のキットを用いて行い、保存を開始していました。PCRマシン2台、定量PCRマシン1台が設置され、BCR-ABLについてはルーチンで評価しているとのことでした。以前にしばらく、ハー先生の研究のためにACCLからキットを提供して、各種の転座について評価していた時があったそうです。現在でも、キットさえあれば、各種遺伝子転座のスクリーニングは実施可能のようです。
2泊3日の短い期間でしたが、ベトナムの先生方の熱意、各国の先生方の支援への熱意を感じることができました。微力ながら、私もベトナムの小児血液がんの子どもたちに貢献できればと思いました。
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