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白血病で苦しむタイの子ども達にも救いの手を~名古屋大学がCAR-T製造技術を無償提供~ research
白血病で苦しむタイの子ども達にも救いの手を
~名古屋大学がCAR-T製造技術を無償提供~
教授 高橋義行
名古屋小児がん基金のミッションの一つに発展途上国における小児がんの子どもの支援があります。今回、タイのチュラロンコン大学に、名古屋大学が開発したCAR-T細胞製造技術を無償提供する契約が両大学の間で取り交わされました。
難治性白血病に対するCAR-T細胞による免疫細胞療法はタイでも大変注目されていますが、製薬会社が発売する数千万円に達するという高額な薬剤は、大部分のタイ国民にとっては、とても手に届くものではありません。そこで、チュラロンコン大学では、製薬会社の開発したCAR-T細胞製剤を使わずに、自施設でCAR-T細胞製剤を製造する道を選択しました。自施設で製造すれば、製薬会社の製剤と比較してずっと安価にCAR-T細胞製剤を患者さんに投与することができます。
高橋義行教授(名古屋大学小児科教授)、Koramit Suppipat先生(チュラロンコン小児科)
従来のウイルスベクター法よりも、名古屋大学が信州大学と共同で開発したPiggyBacトランスポゾン法が、より低コストでCAR-T細胞を製造できる事から、昨年夏にチュラロンコン大学から名古屋大学へ技術提供の打診がありました。同大学にはすでに、細胞培養に必要な無菌室やCliniMACS Prodigyという完全閉鎖式の自動でCAR-T細胞の製造が可能な器械も備わっています。
チュラロンコン大学では、CAR-T細胞の製造や入院費用に一人あたり150万円かかると試算していますが、昨年の10月にタイ国内でCAR-T細胞療法を実施するに必要な資金を募ったところ、1ヶ月で3,800万円の寄付金が集まりました。この寄付金で、まず、20人の難治性急性リンパ性白血病や悪性リンパ腫の患者さんを無償で治療する計画です。その後も、CAR-T細胞療法のための募金活動を継続し、無償で必要とする患者さんに提供する予定です。
わが国では、CAR-T細胞製剤が薬事承認されても、高額なゆえに、適応は再発、難治性の患者さんに限定されます。しかし、非寛解期における治療では副作用が強いばかりでなく、再発率も高いことが知られており、より早期の寛解期における治療が望ましいと思われます。CAR-T細胞製剤のコストが下がれば、CAR-T細胞製剤のより有効な投与方法の検討が可能となります。また、高額な薬剤が与える国民皆保険への影響も心配です。その意味で、チュラロンコン大学の選択は、わが国にとってもたいへん参考になると思います。
2019年3月2日(土)中日新聞「安価な白血病療法、タイに技術支援
名古屋大学」
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