RESEARCH最新の研究内容

再発対策の新しいCAR-T作成と再発・難治性ALLにおいて生存を得るに最も確実な方法~APBMT年次集会報告から~ research

2019.2.9
APBMT(Asia-Pacific Blood Marrow Transplantation Group)年次集会

第23回APBMT年次集会に出席して

名古屋大学大学院 医学系研究科 小児科学
教授 高橋義行

 APBMTの年次集会は、APBMT(Asia-Pacific Blood Marrow Transplantation Group)に所属するアジア・太平洋地域の諸国の関係者が参加して、造血幹細胞移植に関する研究発表をおこなう場で、その事務局は名古屋に置かれている。発足したばかりは、日本がアジア各国を主導していたが、最近は、中国や韓国の活躍が目覚ましい。今年の年次集会は、11月2日から4日まで、台湾の台北で開催された。

 私は、名古屋大学が進めているCAR-T療法やゲノム医療の開発状況についての講演依頼があり、数年ぶりに参加したが、発表される研究のレベルが、以前と比較して格段に上がっていることに驚いた。今回は、CAR-Tに関する研究に的を絞って、発表内容を紹介する。

中国 Lu Daopei 病院における再発・難治性急性リンパ性白血病に対するCAR-T療法

 Daopei Lu教授は、中国でのハプロ移植の先駆者として、たいへん、有名な医師である。北京大学を退官後は、彼の名前にちなんだ造血幹細胞移植の専門病院を設立し、白血病を中心に移植医療を推進している。CAR-Tによる治療経験もすでに、400例に達しているとのことで、今回は、Lu教授の娘さんであるPeihua Lu先生が、2017年4月から2018年5月までの1年間に、Lu Daopei病院でCD19CAR-Tによる治療を受けた110例の急性リンパ性白血病(ALL)の治療成績を発表した。

 対象患者はハイリスクALL患者で、16例の移植後再発例、17例の中枢神経系再発例を含む。骨髄における白血病細胞の占める割合は、0から96%に分布し、中央値は9%と他の報告と比較して、比較的早期にCAR-Tが投与されていた。年齢は、2歳から61歳に分布し、その中央値は12歳であった。なお、CAR-Tは中国のバイオベンチャー2社が製造した製剤を使用した。

 CAR-T投与開始30日後には、90%以上の患者が、フローサイトメトリーによる微小残存腫瘍(MRD)陰性の寛解が得られた。骨髄において、白血病細胞の割合が75%以上を占める腫瘍量の多い患者でも14/18(78%)で寛解が得られた。同様に移植後再発例でも15/16(94%)で寛解が得られた。75例には、CAR-T投与後強化療法として同種骨髄移植が施行されたが、10例(13%)に再発がみられた。

 一方、移植されなかった27例のうち13例(48%)が、CAR-T投与後中央値90日で再発した。再発例のうち、6例(44%)に、白血病細胞のCD19抗原の欠失がみられた。重度のサイトカイン放出症候群(CRS)は12例(11%)にみられ、1例はCRSが原因で死亡した。

再発対策の新しいCAR-T (Senl_B1922pTcell)

 再発への対策として、現在、CD19とCD22抗原を標的としたdual CARにさら抗PDL-1抗体を分泌できるように遺伝子を組み入れた新しいCAR-T (Senl_B1922pTcell)の作成に成功し臨床研究を開始した。すでに、13例がSenl_B1922pTcellの投与を受けている。

Lu Daopei病院では2015年11月から2017年6月までに、84例の急性リンパ性白血病患者が、CD19CAR-Tで寛解が得られた後に、強化療法として同種骨髄移植を受けている。84例のうち、13例は、移植前のMRDが陽性、71例は陰性であった。移植ドナーは、66例がHLA不一致血縁ドナー、15例が非血縁ドナー、3例がHLA一致同胞である。再発は、8例(10%)で、とりわけMRD陰性例では3例(4%)のみであった。とりわけ、移植後に全身性の慢性移植片対宿主病(GVHD)を発症した患者の生存率は97%であった。

アカデミアによるCAR-Tの開発、スペイン、バルセロナ大学での試み

 ヨーロッパにおいても、製薬企業が開発したCAR-Tは超高額であるので、アカデミアが独自にCAR-Tを開発し、治療費用の軽減を図っている。バルセロナ大学では、臨床スケールのレンチウイルスベクターの作成、CAR-T細胞の増幅培養法を開発し、これまで20例の急性リンパ性白血病にCD-19CAR-Tを投与した。1ヶ月後には80%でMRD陰性の寛解が得られており、製薬企業のCAR-Tを使った報告と変わらない

 スペインでは、アカデミアの開発したCAR-Tは、製薬企業の開発したCAR-Tとは別に、薬事申請が可能とのことであった。ウイルスベクターは、バルセロナ大学で製造するが、他の協力病院は、送られたウイルスベクターを用いて、遺伝子導入、細胞培養をおこなう。製造したCAR-T細胞は、限定されてはいるが、他の施設に送ることもできる。症例数が40例に達したら、薬事申請する予定である。パテント代や販売にかかる費用もないことから、製薬企業が販売するCAR-Tと比較して、大幅に安い費用で、CAR-T治療の実施が可能である。

再発・難治性ALLにおいて生存を得るに最も確実な方法は、CAR-TでMRD陰性の寛解を得た後に同種骨髄移植で強化療法をおこなうこと

名古屋小児がん基金 理事長/名古屋大学 名誉教授
小島勢二

 Lu Daopei病院でCD-19CAR-Tで治療された多数例の検討によれば、再発・難治性ALLにおいて生存を得るに最も確実な方法は、CAR-TでMRD陰性の寛解を得た後に同種骨髄移植で強化療法をおこなうことと思われる。1週間前に開催された、インド血液学会で、シアトル小児病院のMarie Bleakley教授も、CAR-T治療後には、必ず、同種骨髄移植を追加すると発言していた。

 さらに、CD19抗原欠失の再発の予防策として、CD19/CD22のdual CAR-Tの臨床試験を開始している点も同じで興味深い。ただ、親しい中国の研究者からの情報では、dual CAR-Tにすると個々のCAR-Tよりも殺細胞効果が劣るので、2種類のCAR-Tを投与しているとのことであった。いずれも、製薬企業の製造したCAR-Tを使っていてはできない話で、発展途上にあるCAR-Tのようなバイオ製剤を、企業が製品として販売するのは、時機尚早と思われる。

 中国が作成したSenl_B1922pTcelは、CD19とCD22抗原を標的としたdual CARにさらに、抗PDL-1抗体の遺伝子を導入した製剤である。本庶教授がノーベル賞を受賞したことで脚光をあびている免疫チェックポイント阻害剤であるが、PD-1抗体であるオプジーボはT細胞上のPD-1に結合するが、PD-L1抗体はがん細胞上のPD-L1と結合する。

 がん細胞は、免疫系から逃避して生き延びるために、免疫チェックポイント分子による免疫抑制機能を利用している。免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1あるいはPD-L1に結合して免疫抑制シグナルの伝達を阻害することで、T細胞の活性化抑制を解除する。すなわち、Senl_B1922pTcelは、抗PDL-1抗体を自ら分泌することで、CAR-Tの働きをより強化する。

 免疫チェックポイント阻害剤のオプジーボは、当初、年間の投与費用が3500万円かかると、その高価格が話題になったが、CAR-Tに抗PDL-1抗体の遺伝子を組み込むことで、抗体を投与するのと同じ効果が期待できる。他の腫瘍抗原を標的としたCAR-Tに抗PD-L1抗体の遺伝子を組み込むことで、今後CAR-T療法は、肺がんなど固形腫瘍にも広がることが予想される

 バイオ薬剤の超高額化は世界中で共通の問題である。バルセロナ大学のように、多くの国では、CAR-Tのコストダウンを図るために、単に製薬企業の製剤の消費者になるのでなく、アカデミアが自分でCAR-Tの製造に乗り出している。スペインにおけるアカデミアで開発した薬剤の薬事申請のシステムは、超高額なバイオ製剤に対する対応法として、たいへん興味深い。




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