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ビーリンサイトってどんな薬?小児ALL治療における位置づけは? research
ビーリンサイトってどんな薬?
小島勢二
「ビーリンサイトは」T細胞が標的の白血病細胞を傷害する
来年からわが国で始まる急性リンパ性白血病(ALL)の新しい治療プロトコールに採用される予定のビーリンサイトは、CD19陽性白血病細胞と患者のT細胞をつなぐことでT細胞を活性化し、その結果、T細胞が標的の白血病細胞を傷害する薬剤です。これまでの抗がん剤とは作用機序が異なり、CAR-T療法と同じく免疫療法剤に位置づけられます。
ビーリンサイトを投与した第Ι/II相試験の結果
海外で93人の小児再発又は難治性B細胞性ALLを対象に第Ι/II相試験がおこなわれましたが、その結果、投与方法として5~15μg/m2/日を28日間点滴持続投与した後、14日間休薬し、これを1サイクルとして最大5サイクルまで繰り返すことが推奨されています。
2サイクルまでに完全寛解に達したのは、評価可能な70例のうち27例(38.6%)で、そのうち51%では、10-4未満(10,000個のうち1個)に微小残存腫瘍は減少しました。寛解が得られた27例のうち13例(48.1%)は、その後同種骨髄移植を受けています。しかし、寛解が得られた27例の再発なしで生存した期間の中央値は4.4ヶ月で、寛解に達してから16ヶ月で無再発生存率は0%となっています。一方、評価可能な70例の全生存期間の中央値は7.5ヶ月で、ビーリンサイトの投与開始から20ヶ月の時点の全生存率は0%でした。CAR-T療法と同様にサイトカイン放出症候群が22%にみられました。
日本国内でも、9人の再発・難治性小児ALL患者を対象に臨床試験が行われました。2サイクル以内に骨髄で寛解が得られたのは5/9(56%)でした。なんらかの有害事象はほぼ全例にみられましたが、うちサイトカイン放出症候群は5例(56%)に認めました。一部の症例に移植が施行されましたが、生存者は1人のみです。
1サイクルの薬価が800万円とも
ビーリンサイトは、もともとドイツのバイオテクノロジー会社であるMicromet社が開発した製剤ですが、2012年に米国のAmgen社が同社を買収した結果、2016年に米国で薬事承認された薬です。当時、178,000ドル(2,000万円)と高額な薬価がついたことで話題になりました。
日本では、アステラス社とAmgen社との合弁会社が製造販売することになり、2018年11月末に、35μgの1瓶が281,345円の薬価がつきました。添付文書の用量・用法に従い、体重45kgの患者が1サイクル28日間の投与を受けると、787万円となります。添付文書の用法には、最大5サイクル投与を繰り返すと記載されていますので、その総額は3,935万円に達します。
ビーリンサイトの小児ALL治療における位置づけは?
これまで小児においては、再発ALLを対象にビーリンサイトの効果が検討されてきましたが、最初の2サイクルでの完全寛解率は38.6%と、同じくCD19抗原を標的にしたCAR-Tの完全寛解率が80~90%であることと比較して、その殺細胞効果は劣るようです。
CAR-Tは中枢神経系白血病にも効果がありますが、ビーリンサイトは中枢神経系へ到達しないので、中枢神経系白血病への効果がみられません。それゆえ、寛解が得られても髄外再発が多く、その多くは短期間に再発してしまうようです。CAR-Tにおいても、非寛解期に治療された患者の多くが再発してしまうので、CAR-Tで寛解が得られた後に同種骨髄移植を受けることが勧められています。また、CD19抗原がロスして再発することが多いので、CD19とCD22抗原を標的にしたCAR-Tの臨床試験が始まっています。
非寛解例はビーリンサイトのみで治癒を得ることは困難
以上を考慮すると、非寛解例については、移植への橋渡しが主で、ビーリンサイトのみで治癒を得ることは困難と思われます。難治性のALL患者の初回治療にビーリンサイトを加えることで、治療成績が向上するかどうかは、今後取り組もうとしている課題です。ただ、このような高額な医療に、わが国の皆保険制度が耐えることができるかを論ずることが必要と思われます。
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