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第27回小児再生不良性貧血治療研究会がWEB開催される research

2020.11.23

第27回小児再生不良性貧血治療研究会がWEB開催される

名古屋小児がん基金理事長/名古屋大学名誉教授
小島勢二
再生不良性貧血の骨髄像
再生不良性貧血の骨髄像:造血組織が消失して脂肪に置き換わっている。ピンク色に見えるのは骨である。

第27回小児再生不良性貧血治療研究会の話題から

11月8日に、第27回小児再生不良性貧血治療研究会がWEB開催されました。本研究会は、1994年に第1回が開催されて以来、名古屋大学小児科が事務局となって、手作りの研究会を開催してきました。今回は、初のWEB開催となりましたが、高橋教授を始めとする小児科スタッフの奮闘で、コンベンションサービスのサポートを受けることなく、独力で開催することができました。

再生不良性貧血の研究は、小児がんと並んで、名古屋大学小児科血液・腫瘍グループの2大看板です。名古屋大学では、全国の施設からの依頼に応じて、中央診断事業として、小児骨髄不全症候群に対する免疫学的検査や遺伝子検査を行っています。

プログラムには、過去1年間に行った中央診断の結果を報告するとともに、海外の演者の講演や全国の各施設からの症例報告が含まれています。海外からの参加者もあるので、使用言語は原則英語です。WEB開催ということで、参加者が減少することが心配だったのですが、参加者は例年よりも増加して250人に達しました。

Shimamura Akiko先生によるキーノートレクチャー

Shimamura先生は、幼少時から米国で教育を受け、現在はハーバード大学の教授であると同時に、ボストン小児病院の骨髄不全症/骨髄異形成症候群(MDS)部門のdirectorを務められています。先生の専門分野は、ファンコニ貧血などの遺伝性骨髄不全症の病因研究ですが、このほか、北米で小児再生不良性貧血の治療コンソーシアムを設立し、中心的役割を果たしています。

今回は“Mechanism of clonal evolution in bone marrow failure, 骨髄不全症におけるクローン性進化の機序”というタイトルで講演されました。遺伝性骨髄不全症に限らず再生不良性貧血などの後天性骨髄不全症の一部の患者においても、MDSや急性骨髄性白血病に進展することが知られています。

進展するにあたっては種々の体細胞遺伝子変異が関与することが、次世代シーケンサーによる網羅的遺伝子解析によって明らかとなってきました。これらの研究の進歩によって、白血病になりやすい体質の分子メカニズムが解明されることが期待されます。

小児骨髄不全症候群に対する中央診断レポート:次世代シ―ケンサー(NGS)による網羅的遺伝子解析を中心に

ファンコニ貧血などの遺伝性骨髄不全症の確定診断は、原因遺伝子の同定が確定診断となりますが、原因となる遺伝子変異の種類が多く、また病気によってはお互いに症状がよく似ていて、臨床症状のみでは正確な診断が困難です。

そこで、名古屋大学では、次世代シーケンサーを用いて、パネル解析を行い遺伝性骨髄不全症候群の中央診断を行っています。パネル解析に含まれる検査対象の遺伝子数は、始めは200遺伝子ほどでしたが、現在は700遺伝子まで増やしています。パネル解析で原因遺伝子が見つからない場合には、2万個の遺伝子を対象としたエクソーム解析を追加しています。

この事業は2013年に開始されましたが、これまでに検査した人数は1000人に達しています。そのうち、診断につながる遺伝子変異は282人(29%)に見つかりました。もっとも多いのはファンコニ貧血の72人で、先天性赤芽球ろうの27人、先天性角化不全症の19人が続きます。遺伝性骨髄不全症以外に38人の先天性溶血性貧血や19人の先天性免疫不全症が診断されています。

さらに、166人に対してエクソーム解析を追加することで、22人(13%)に原因遺伝子が見つかり確定診断を得ることができました。検査会社を含め、全ての遺伝性骨髄不全症を対象に網羅的遺伝子検査を行なっている施設は、わが国では名古屋大学以外にはないので、わが国の遺伝性骨髄不全症の診療には欠かせないものになっています。

骨髄不全症候群に対するNGSによるパネル遺伝子解析受付総数
骨髄不全症候群に対するNGSによるパネル遺伝子解析受付総数

名古屋大学では、2013年から全国の100以上の施設から骨髄不全症候群に対するNGSによるパネル遺伝子解析を受け付けており、現在総数は1000件に達している。

海外からの検査依頼も受付

日本全国の施設からの依頼のほか、最近では海外の施設からの検査依頼もあります。今回の研究会でも、タイのマヒドン大学から30人の検査依頼があり、そのうち9人で確定診断が得られたことが報告されました。

なお、わが国では次世代シーケンサーによる遺伝性骨髄不全症の遺伝子検査は保険適応がないので、検査費用は公的研究費や名古屋小児がん基金からのサポートで賄っており、患者さん御家族の経済的負担はありません。

米国における遺伝子検査

Shimamura先生に遺伝性骨髄不全症のパネル解析は、米国ではどのように行われているか尋ねたところ、ベイラー大学やフィラデルフィア小児病院など一部の専門施設では、自施設で検査しているが、多くの施設は検査会社に依頼しているようです。米国の保険は種類によって保険でカバーできる範囲が異なりますが、遺伝性骨髄不全症のパネル解析については、多くは保険でカバーされています。検査会社に支払う費用を尋ねたところ750ドルとのことでした。遺伝子変異が同定された場合には、患者さん御家族の検査も行われますが、その費用は無料です。急がせれば、3週間で検査結果がわかるようです。

日本では、骨髄不全症のパネル遺伝子検査は保険でカバーされませんが、120~320種類の遺伝子を対象にした固形がんのパネル遺伝子検査の保険価格は56万円です。一方、名古屋大学が行っている、700種類の遺伝子を含むパネル検査にかかる検査費用は2万円ほどです。薬の値段ばかりでなく、検査の価格も国によって大きな違いがあるようです。




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