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第82回日本血液学会学術集会の話題から research

2020.11.19

第82回日本血液学会学術集会の話題から

名古屋小児がん基金理事長/名古屋大学名誉教授
小島勢二

今年の第82回日本血液学会学術集会は、10月9~11日に京都で開催される予定でしたが、コロナ禍のためにWEB開催に変更されました。オンデマンド配信があったので1ヶ月間、好きな時間に何度でも聴きたい発表にアクセスできるのはWEB開催の大きなメリットです。今回はおもに、急性リンパ性白血病(ALL)に関する演題を中心に、最新情報を報告します。

次世代シーケンサー(NGS)による微小残存病変(MRD)測定が日本でも可能に

今年の4月に海外の市場調査会社から、私のところにリンパ系腫瘍に対するNGSによるMRDの測定に関する問い合わせがありました。NGSによるMRD測定検査を行っている米国の検査会社が日本に進出することを計画しているので、市場調査をしたいとの内容でした。私に問い合わせがきたのは、以前、ALLに対するNGSによるMRDの測定結果を国際誌に発表したことがあるからのようです。1検体18万円の検査価格を予定しているとのことで、この価格設定についての意見も求められました。

ところで、わが国でリンパ系腫瘍を対象にNGSによるMRD測定を行っているのは、今もって名古屋大学小児科だけです。今回の学会では、米国のAdaptive Biotechnologie社が日本の理研ジェネシスを代理店として、リンパ系腫瘍に対するNGSによるMRD測定を研究目的で受け付けるとのアナウンスがありました。日本から送られた検体は、米国の検査会社で検査して、その測定結果が日本に返送される仕組みです。

昨年、米国の検査会社が行う固形腫瘍に対するNGSによる遺伝子パネル検査が、56万円で保険収載されましたが、今回のAdaptive Biotechnologi社の進出もわが国における保険収載を睨んでの動きでしょう。56万円の遺伝子パネル検査も、名古屋大学では2万円で検査できます。同様に、18万円の価格を予定しているNGSによるMRDの測定も、名古屋大学では1万円以下で測定可能です。

日本では、今年から PCR法によるMRD測定が保険採用となりましたが、NGSによるMRDの測定感度はPCR法と比較して感度が優れており、治療方針の決定により有用です。PCR法では、1万個の骨髄細胞中1個の白血病細胞を検出可能ですが、NGS法では、100万個の骨髄細胞中1個の白血病細胞を検出可能です。名古屋大学では、これまで150人以上の小児ALL患者に、NGSによるMRD測定を行っていますが、患者家族の経済的負担が無いようにと、民間からの研究費や名古屋小児がん基金のサポートでその検査費用を賄っています。以下は、名古屋大学における研究結果です。

MRD測定のタイムポイント

ALLの治療経過中、1)寛解導入後、2)強化療法後、3)維持療法前4)維持療法後の4点で、NGSによるMRD測定を行った。MRDの陽性率は、47%、23%、14%と減少したが、2年間の治療中止直後でも8%の患者ではMRD陽性であった。維持療法中止時にMRD陽性の患者は、早期に再発が見られた。

NGS-MRDに基づいたALLのリスク分類

寛解療法直後と強化療法直後の2点でいずれもMRDが検出されないグループと、両方あるいはどちらか一方でMRDが検出されたグループとで無病生存率を比較したところ、100万個の骨髄細胞中1個の白血病細胞を検出可能な超高感度なレベルでは両群間に有意な差が見られたが1万個に1個の白血病細胞を検出する感度で分けた場合には、有意差は見られなかった。NGSによる超高感度なレベルでMRDを測定すれば、比較的弱い強度の化学療法で治癒可能な患者グループの抽出が可能である。

  

わが国におけるCAR-Tの治療成績

昨年、ノバルテイス社のCD19CAR-T製剤(キムリア)が、わが国でもALLとびまん性大細胞型悪性リンパ腫(DLBCL)が適応となり、全国に14ある認定施設での投与が始まりました。今回の学会では、いくつかの認定施設から治療経験が発表されました。北海道大学からは11人、兵庫医大からも17人のDLBCL患者の治療成績が報告されましたが、海外からの報告と同様に半数の患者において完全寛解が得られるも、観察期間が短いので長期予後については触れられませんでした。

京都大学からは、22人に対するリンパ球採取の経験が報告されました。採取したリンパ球は、米国にある製造施設に送られ、製品として日本に返送されますが、リンパ球採取から製剤が納品されるまでに、平均2ヶ月ほどの期間を要しています。

昨年末に発行されたInternational Journal of Hematology(IJH)誌に、京都大学小児科からALLに対するキムリアの治療結果が報告されていますので、その後のフォローアップ成績を知りたかったのですが、今回の発表では治療成績については触れられませんでした。IJH誌では、キムリアで治療された6人のうち3人が、キムリア投与後、3、4、19ヶ月間無病生存中とのことですので、2年経った現在、そのあとも無病生存中であるかを是非知りたいところです。

日本血液学会と重なって開催されたAPBMT年次集会では、北京博仁病院における1000人を越えるCAR-T療法の治療成績が発表されているだけに、CAR-T療法における日本と中国との臨床経験の差は驚くばかりです。

日本におけるキムリアで治療した急性リンパ性白血病患者のフォローアップデータ

キムリアの治験では、8人からリンパ球が採取されたが、2人については製剤が納品されるまでの間に状態が悪化して、キムリアを投与することができなかった。キムリアが投与された6人のうち4人で寛解が得られた。4人のうち3人は、キムリア投与後、3.1、4.1、19.5ヶ月寛解を維持している。投与された6人のうち5人はサイトカイン放出症候群を発症し、3人は人工呼吸管理、2人は腎機能が悪化して透析管理が必要であった。

名古屋大学からのCAR-Tに関する報告

非寛解例に対するCAR-T治療後、再発予防のためにさらに同種造血幹細胞移植を追加するかあるいはCAR-T治療のみでの治癒を期待するかは切実な問題です。名古屋大学ではCAR-T治療後にNGSによる超高感度MRDが陰性だった場合は、CAR-T治療のみでの治癒を期待して、同種造血幹細胞移植を追加することなく経過観察しています。これまで、同種移植後の再発に対してCAR-T治療を受けた3人がこの研究に参加しています。10ヶ月と4年経過した2人は再発なく生存中ですが、一例はCAR-T投与後10ヶ月後にMRDが陽性化し、さらに4ヶ月後に血液像でも再発が確認されました。

再発ALLに対してNGS-MRDを指標にしたCAR-T治療の選択

大阪地区における小児/AYA世代白血病の全生存率の変遷

小児急性リンパ性白血病の全生存率は、ヨーロッパおよび米国においては、1978年には、65%、70%であったのが、2006年にはともに90%と改善しています。

今回、大阪国際がんセンターがん対策センターから大阪府がん登録のデータを用いて、小児/AYA世代白血病の生存率の変遷が報告されました。1975年から2011年の35年間に登録された0~14歳の小児白血病は2254人で、その内訳は急性リンパ性白血病(ALL)が63%、急性骨髄性白血病(AML)が25%、慢性骨髄性白血病が3%、その他が9%でした。小児ALL、AMLの全生存率は1975年の30%、0%が1995年には82%、60%、2010年には、86%、71%と改善しましたが、欧米のレベルには追いついていません。

2006年から2011年に登録された小児/AYA世代の白血病患者539人について死亡に関連するリスク因子について多変量解析で検討したところ、ALLについては、AYA世代は小児と比較して3倍、AMLについては非専門病院で治療された場合は専門病院で治療を受ける場合と比較して1.9倍、死亡するリスクが高いことが示されました。




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