LECTUREDr.小島の小児がん講座

遺伝子診断と病理診断を比較して一致率を検討 lecture

2020.11.13

遺伝子診断と病理診断を比較して一致率を検討:網羅的遺伝子診断(3)

名古屋小児がん基金理事長/名古屋大学名誉教授
小島勢二

成人のがんと小児のがんにおける遺伝子解析の役割の違い

成人のがんと小児のがんにおける遺伝子解析の役割の違いについて触れてみたいと思います。

成人のがんと小児のがんにおける遺伝子解析の役割の違い

成人のがんにおいては、肺がんや胃がんなど遺伝子解析をする前に診断はすでに確定しています。遺伝子診断の目的は治療法に影響する遺伝子変異を検出することです。すなわち、分子標的薬を見つけるのが目的です。

小児がんにおいては、たとえ病理検査を行っても診断が確定できないことがしばしばみられます。がんには、そのがんにしかみられない遺伝子変異がありますので、遺伝子変異を検出することで診断を確定することができます。すなわち、診断に繋がる遺伝子変異を検出することが目的の一つです。また成人と同様に、分子標的薬を見つけることも目的としています。求める役割が異なるため、必要とされる遺伝子解析の方法も異なります。

網羅的遺伝子診断が診断に有用だった1例

肺にできた、病院の検査で診断できなかった小児がん

網羅的遺伝子診断が診断に有用だった1例を提示します。この患者さんは肺にできた腫瘍で、最初の病院の病理検査では、small round cell tumorと診断されましたが、small round cell tumorというのは文字通りに小さな円形細胞が集まった腫瘍ということで、どこの臓器から発生した腫瘍なのかが明らかではありません。その後の検討で、胸膜肺芽腫の診断がつけられました。

そこで網羅的遺伝子解析を行ったところSYT-SSX2融合遺伝子が検出されました。この融合遺伝子は滑膜肉種に特徴的な遺伝子変異ですので、この患者さんは滑膜肉種と確定診断され、最も効果的な治療を受けることができました。

小児固形がんの原因遺伝子は独特の融合遺伝子がほとんどで、成人のがんに的を絞った遺伝子パネル解析では多くの場合検出できません。

遺伝子診断と病理診断を比較して一致率を検討

小児がんは稀な腫瘍が多く、日本全国でも年間の発症数が数例という腫瘍も見られます。そのため専門の病理医でも十分な経験を踏むことは容易ではありません。また成熟傾向が見られない未熟な細胞から構成されている場合が多く、先の症例のようにsmall round cell tumorと診断される症例もよく経験します。そのため、確定診断が困難な腫瘍も多く、また診断が二転三転することもあります。特徴的な融合遺伝子が検出されれば、正しい診断がつくわけですので、保存された検体を用いて遺伝子診断を行い、病理診断と比較してその一致率を検討してみました。

遺伝子解析は小児がんの診断に役立つ

今回は小児がんの中でも診断が困難な軟部肉種を選びました。横紋筋肉腫は胞巣型と胎児型に大別されますが、この2つのタイプは同じ横紋筋肉腫ですが、治療法も予後も異なります。

症例1は横紋筋肉腫の胞巣型と病理診断されましたが、遺伝子診断でも胞巣型にみられるPAX3-FOXO1(FKHR)融合遺伝子が検出されました。症例13は病理診断でユーイング肉腫と診断されましたが遺伝子診断でもユーイング肉腫に特徴的なEWS-FLI1融合遺伝子が検出されました。

一方、症例4は病理診断では横紋筋肉腫 胞巣型と診断されましたが、遺伝子解析ではユーイング肉腫に見られるEWS-FLI1融合遺伝子が検出され、遺伝子診断の結果ユーイング肉腫に診断が変更されました。このように病理診断と遺伝子診断が一致しない症例が半数存在しました。

症例36のように、これまで報告されたことがない融合遺伝子が検出され、新規の小児がんと考えられる症例も見られました。

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