LECTUREDr.小島の小児がん講座

遺伝子検査の方法 lecture

2020.11.13

遺伝子検査の方法:網羅的遺伝子診断(1)

名古屋小児がん基金理事長/名古屋大学名誉教授
小島勢二

網羅的遺伝子検査の現状

最近ゲノム医療という言葉をよく耳にしますが、がんの診断や治療の分野で、遺伝子情報が用いられるようになってきました。これも、次世代シーケンサーという遺伝子を網羅的に検査することができる器械が登場したからです。今回の講義では、網羅的遺伝子検査の現状について学びます。

遺伝子の構成

遺伝子の構成

まず、理解を助けるために、遺伝子の勉強をおこないたいと思います。それぞれの細胞は決まったタンパク質で構成されています。細胞の中には、46本の染色体があります。染色体は2重らせん構造のDNAが折り重なってできています。遺伝子の決まった塩基配列により、決まったタンパク質が作られますが、ヒトには、2万種類の遺伝子があり、それぞれの遺伝子の命令により、体を作るタンパク質が製造されます。DNAは約30億対の塩基配列でできています。なお、遺伝子はDNA中の決まった場所に存在しています。

核酸の基本単位であるヌクレオチドは、アデニン、チミン、ウラシル、グアニン、シトシンの5種類の塩基で構成されています。

設計図の役目をするDNAが転写されてRNAになり、さらにRNAが翻訳されてタンパク質が作られます。遺伝子領域は、全DNAの数%にすぎませんがエクソンと呼ばれています。残りの部分はイントロンと呼ばれています。それぞれの遺伝子からは決まったタンパク質が作られますが、異常な塩基配列がみられますと、異常なタンパク質が作られ、場合によっては、がん化する原因になります。

遺伝子の異常には、塩基が他の塩基に変わる点突然変異や、塩基の一部分の欠失や挿入があります。

これも重要なことですが、遺伝子の異常には、2種類あります。生殖細胞系遺伝子変異といって親から子孫に伝えられる変異と、体細胞遺伝子変異といって子孫に伝わらずに、出生後に発生する遺伝子変異です。がんになるのは、体細胞遺伝子変異の結果ですが、ある種の生殖細胞系遺伝子変異があるとがんになりやすいこともわかってきました。

シーケンス法:遺伝子の検査法

遺伝子の検査法としては、以前使われていたハイブリダイゼーション法は廃れ、現在ではシーケンス法が用いられています。シーケス法は、調べたい遺伝子の決まった範囲をPCRで増幅し、それぞれの塩基を発色させる特殊な反応をおこない、シーケンサーという自動読み取り装置で、塩基配列を決定します。ただ、この方法では、一度に、一つの遺伝子しか調べることができません。

次世代シーケンサー

10年ほど前に、次世代シーケンサーという、遺伝子研究に強力な武器が出現しました。ヒトには、およそ2万個の遺伝子がありますが、この器械を用いると 5日間で、100人分の、すべての遺伝子を解析することが可能です。

2003年に完了したヒトゲノム計画では、世界各国が協力して30億ドルという莫大な費用と13年間の月日をかけて、ヒト1人分の全遺伝子を解析しましたが、現在では、次世代シーケンサーを用いれば、10万円で、1週間もかからずに、ヒト1人の全遺伝子を解析することが可能です。

エクソーム解析:エクソン領域のみシーケンスする方法

全エクソーム解析の概要

網羅的遺伝子解析の中でも、最もよく用いられるエクソーム解析の概要を説明します。イントロン領域を含む全遺伝子領域をシーケンスすることも可能ですが、エクソンという全ゲノムの1~2%を占める部位に疾患関連突然変異の多くが存在します。そこで、エクソン領域のみシーケンスする方法がよく行われます。それがエクソーム解析です。

DNAを次世代シーケンサーで解読できる短い長さに超音波で断片化し、シーケンスに必要な核酸の断片を得ます。核酸断片はエクソン領域に相補的なプライマーとハイブリダイズすることでエクソン領域のみの配列を捕捉します。次に次世代シーケンサーで塩基配列を読み取り、遺伝子断片を並び替えて、健常人と比較して変異を抽出します。

次世代シーケンサー 解析の概要

通常、1症例あたり2万から2万5千個の変異が検出されますので、この中から病気の原因となる変異を絞り込む必要があります。健常人にも見られる変異、これをSNPと呼びますが、公表されているデータベースや自施設のデータベースを用いて、5%以上の健常人に見られるSNPを除外します。対象疾患の既知の原因遺伝子に絞り込みます。

さらに、HGMD, Human Genome Mutation Databaseに報告があるか、insertion, deletion, splice site, nonsense変異など遺伝子を不活化する変異であるかのどちらかを満たす候補に絞り込みます。最後に、遺伝形式等を文献で個別に確認します。

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