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CAR-T療法の臨床成績~ヨーロッパ骨髄移植会議EBMT2019 research

2019.5.12

第45回ヨーロッパ骨髄移植会議EBMT2019の報告から

名古屋大学 名誉教授/名古屋小児がん基金 理事長 小島勢二

 第45回EBMT会議が3月24日から27日までの期間、ドイツのフランクフルトで開催されました。第1回のEBMT会議は、スイス有数のスキーリゾートであるサンモリッツで4人の造血幹細胞移植のパイオニアが集まって開催されたと聞いております。以来、EBMT会議は毎年3月にヨーロッパのスキーリゾートで開催されてきました。

 私がこの会議に参加するようになった1990年代までは、午後の1時から4時まではスキータイムとして、学会のプログラムは空けられていましたが、参加者が増えた昨今では、スキーリゾートでの開催もなくなり、フランクフルトのような大都市で開催するようになりました。昔のEBMT会議に参加していた者としてはすこし寂しい感じがします。

 日本人の参加者も昔は数人程度でしたが、最近では50人近くの参加者がみられるようになりましたが、日本からの口演演題は減少気味で、今年はわずか3演題にすぎませんでした。そのなかで、名古屋大学小児科の成田敦先生の発表が、Best of EBMTとして採択されたのは、うれしい限りです。日本からの口演が減少しているのに対して、今回の学会では中国からは13演題が口演に採択されており、造血細胞移植の分野でも中国の勢いを強く感じました。

 EBMT会議でも、CAR-Tに関する発表が激増しており、ヨーロッパにおけるCAR-T療法に対する期待の強さを感じました。また、遺伝子治療の臨床成績が報告されるようになったことも時代の流れでしょうか。

ドイツにおけるノバルティスCD19-CAR-T(Tisagenlecleucel)の急性リンパ性白血病に対する治療成績

 ドイツにおける小児/若年成人の再発/治療抵抗性ALL患者に対するノバルティス製剤の治療成績が報告されました。23人についてリンパ球採取がおこなわれましたが、病気の進行、CAR-T細胞の培養失敗により、3人はCAR-T製剤の投与を受けることができませんでしたが、最終的に20人にCAR-T製剤が投与されました。最長でも、CAR-T投与後の観察期間は12ヶ月と短期間の観察ですが、13人は寛解中で、6人が再発、1人は合併症死しています。

 リンパ球採取からフルダラビン/シクロフォスファミドによる前治療を投与するまでの3~4週間に、低用量の化学療法に加えて、移植後の再発例にはドナーリンパ球輸注を併用した寛解導入療法を受けています。寛解が得られた9人では、CAR-T投与後も全例が寛解を維持しており、6ヶ月の時点の無病生存率が100%であるのに対し、寛解が得られなかった11例では、7例がCAR-T投与後も寛解が得られないか、一旦寛解が得られても再発しており、6ヶ月の無病生存率は54%でした。CAR-T投与直前に寛解が得られていることが、治療の奏功に関する最も重要な因子です。

自動CAR-T製造機器CliniMACS ProdigyによるCD19-CAR-Tの臨床試験

 Miltenyi Biotec社からは、細胞分離、遺伝子導入、細胞培養/増幅を閉鎖回路で自動的におこなう器械が発売されており、この器械を使ったCD19-CAR-Tの臨床試験の結果が複数の施設から報告されました。

自動CAR-T製造機器CliniMACS Prodigy
Miltenyi Biotec社の自動CAR-T製造機器“CliniMACS Prodigy”

スペイン:自施設で作成したレンチウイルスベクターを用いて遺伝子導入

 スペインのバルセロナ大学では、自施設で作成したレンチウイルスベクターを用いて遺伝子導入しており、モスクワのDmitry Rogachev国立医療センターではMiltenyi Biotec社が販売しているレンチウイルスベクター(Lentigen)を遺伝子導入に用いています。

 バルセロナ大学では、20人のALL患者にCAR-T製剤が投与され、寛解率が78%、1年無病生存率が53%とノバルティス製剤と同様の成績が得られています。モスクワにおいても15人が研究に登録されましたが、全例でCAR-T細胞の培養に成功しています。評価可能な11人のうち、8人で微小残存病変(MRD)が陰性の寛解が得られています。

 無菌室も必要とせず、製薬企業のCAR-T製剤と比較してずっと安価に製造可能であることから、今後わが国でもCliniMACS Prodigyが普及するのではないかと思います。名古屋大学はすでに、CliniMACS Prodigyを保有しています。

ロシア全土から紹介される小児がん患者の総数が年間2000人

 モスクワのDmitry Rogachev国立医療センターはプーチン大統領の肝いりで、最近、設立された病院です。これまで、ロシアからの演題が、EBMT会議において口演に採択されることは稀だったのですが、今回は、Dmitry Rogachev国立医療センターからの質の高い発表が目立ちました。この病院にロシア全土から紹介される小児がん患者の総数が年間2000人に達すると聞いて驚きました。日本で1番小児がん患者数が多い名古屋大学でも、その1/20にすぎません。

CAR-T投与後に同種造血幹細胞移植は必要か?

 

 再発/治療抵抗性ALLに対して、CAR-T療法は高い寛解率をもたらしますが、その後に再発する患者が多くみられます。中国のBeijing Boren病院では、CAR-T投与後に、同種造血幹細胞移植を追加することで、再発を減らす試みをおこなっています。

 2017年8月から2018年11月の間に、CAR-T治療をうけ寛解が得られた52人の再発/難治性ALL患者に対して同種造血幹細胞移植をおこないました。患者さんの年齢の中央値は6歳です。

 移植ドナーは40人がハプロドナー、8人がHLA適合兄弟ドナー、4人が非血縁ドナーでした。CAR-Tの投与から移植までの期間の中央値は50日(範囲:34~98日)でした。10人に再発がみられ、移植後1年の無病生存率は71%,、全生存率は88%でした。また、Grade 2度以上の急性GVHDは5例にみられたのみでした。

CD19xCD22 dual CAR-TはCD19-CAR-Tよりも有用か?

 CAR-T療法後の再発の原因として腫瘍細胞表面上のCD19抗原の欠失が考えられていますが、複数の抗原をターゲットにしたdual-CAR-TはCD19-CAR-Tと比較してより有効でしょうか。中国、杭州市にあるZhejiang大学病院では、この問いに答えるために2つのCAR-T製剤の比較をおこないました。

 対象は成人の再発/治療抵抗性悪性リンパ腫患者です。9人にはCD19-CAR-Tを10人にはCD19xCD22 dual CAR-Tが投与されました。CD19xCD22 dual CAR-T群では7人に完全寛解、2人に部分寛解が得られ、投与開始3ヶ月後の全生存率は90%でした。一方、CD19-CAR-T群の完全寛解は4人、部分寛解は2人で、全生存率は56%でした。Grade3-4のサイトカイン放出症候群は、CD19-CAR-T群で3例、CD19xCD22 dual CAR-T群で1例にみられましたが、両群ともに治療関連死はみられませんでした。

成田敦先生の発表:Best of EBMTに選ばれる

成田敦先生の発表: Best of EBMTに選ばれる
今年から米国血液学会にならって、”Best of EBMT”が設定された

 重症再生不良性貧血は、骨髄低形成と汎血球減少を特徴とする病気です。免疫細胞が自分の血液幹細胞を攻撃することが原因と考えられており、治療として免疫抑制療法が選択されます。

 重症再生不良性貧血の治療の鍵となる薬剤は抗胸腺細胞グロブリン(ATG)ですが、ATGとシクロスポリンを併用した免疫抑制療法は、HLA一致適合ドナーがいない場合や40歳以上の患者において、30年間以上にわたって、第一選択薬の地位を占めてきました。

 しかし、免疫抑制療法への反応率は50~60%に過ぎません。治療に反応しない場合は、免疫が関与しない他の原因によると考えられてきました。不思議なことに、これまでATGの血中濃度と治療への反応性について検討した報告はみられません。

 成田先生は、免疫抑制療法を受けた患者さんのATGの血中濃度を測定して、治療への反応との関係を調べてみました。体重あたり同じ量のATGを投与しても、得られるATGの血中濃度は、患者さんによって随分幅があることがわかりました。この血中濃度の違いは、ATG投与前の末梢血リンパ球の数で決まります。

 治療に反応した患者さんは、反応がみられなかった患者さんと比較して、ATGの血中濃度が高いことがわかりました。驚いたことに、ATGの血中濃度が、ある一定の値以上ですと、90%の患者さんは、治療に反応しております。今後は、この値以上の血中濃度をめざして、投与量を患者さん毎に調整すれば、治療成績の向上が期待できると考えています。

 今回はCAR-T療法に関する話題が中心でした。次回は、異染性白質ジストロフィー(MLD)、地中海貧血(サラセミア)、慢性肉芽腫症(CGD)に対する遺伝子治療の最新情報をお伝えします。




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