RESEARCH最新の研究内容

【CAR-T細胞療法の治験結果】日本造血細胞移植学会総会に参加して research

2019.4.19

CAR-T療法をめぐって

名古屋大学 名誉教授/名古屋小児がん基金 理事長
小島勢二
第41回日本造血細胞移植学会総会

 今回の学会では、ノバルテイスが行なった2つの国際共同治験について、日本国内の成績が治験参加施設から発表されました。また、海外におけるCAR-Tの研究の状況についても、招待演者から報告されました。

ノバルテイス:急性リンパ性白血病(ALL)に対する治験結果

 ノバルテイスは小児・若年成人に発症した再発/難治性ALLを対象に、25施設が参加する国際共同治験(ELIANA試験)を実施しました。日本では、京都大学小児科がこの治験に参加しました。9人の患者さんが、治験参加の適格性についてスクリーニングを受け、早期死亡した1人を除いて、8人が治験に参加しました。

 患者さんから採取されたリンパ球は米国に送られ、CAR-T製剤の製造を試みられましたが、2人については十分量が得られず、最終的に、6人がCAR-T製剤の投与を受けることができました。1人は効果判定前に早期に死亡し、1人は効果が認められませんでしたが、4人が寛解に至り生存中です。5人に副作用として、サイトカイン放出症候群(CRS)がみられましたが、インターロイキン6受容体抗体であるトシリツマブの投与で、コントロール可能でした。

ノバルテイス:びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に対する治験結果

 ノバルテイスは成人再発/難治性DLBCLを対象に国際共同治験(JULIET試験)を実施しましたが、日本からは国立がん研究センター、北海道大学、九州大学の3施設が参加しました。17人が治験に参加しましたが、6人が病気の進行のため、2人はCAR-T細胞が十分に培養できなかったため投与できず、最終的に9人にCAR-T療法を受けることができました。

 全期間を通じて、5人に完全反応(CR)、2人に部分反応(PR)がみられ、全反応率は7/9(78%)でした。PRの2人は早期に再発死亡しましたが、1年以上の経過観察ができている患者さんを含め、CRの5人は生存しています。CRSを発症した6人のうち、grade3の2人は、トシリツマブが投与されました。

海外演者の報告

 米国ベイラー医科大学は、CAR-T研究の分野では、世界のトップランナーです。信州大学小児科の中沢教授や名古屋大学の西尾先生もベイラー大学への留学経験があり、その研究成果を持ち帰って、両大学でCAR-T療法の研究を進めています。今回は、ベイラー大学から招待されたBrenner教授、Rooney教授から、新しいCAR-T製剤の開発状況が発表されました。

神経芽腫や骨肉腫を対象としたGD2.CAR-Tの開発

 Rooney教授は、神経芽腫や骨肉腫を対象に、GD2.CAR-Tの開発に取り組んでいます。体内でCAR-Tの増殖を促進するために、水痘特異的細胞傷害性T細胞を用いてGD2.CAR-Tを作成し、GD2.CAR-Tを投与後に水痘ワクチンを接種することで、体内でCAR-T細胞を増殖させ、抗腫瘍効果の増強を図っています

 また、CAR-T細胞にインターロイキン7(IL-7)受容体遺伝子を導入し、持続的に活性化IL-7を発現させることで、サイトカインによる刺激を受けることなく、持続的に増殖可能なCAR-Tの作成に取り組んでいます。

再発ホジキンリンパ腫を対象にしたCD30.CAR-Tの臨床試験の結果

 Brenner教授は24人の再発ホジキンリンパ腫を対象にしたCD30.CAR-Tの臨床試験の結果を報告しました。16/24(66%)がCRに至り、1年無病生存率は45%でした。再発例において、CD30抗原の消失はみられませんでした。CRSは評価可能な6/16(38%)に観察されました。また、T細胞性リンパ性白血病(T-ALL)を対象に、CD5.CAR-Tの開発にも取り組んでいます。

難治性神経芽腫を対象にGD2.CAR-Tの臨床試験を開始

 イタリア、ローマ大学のAlgeri先生は、T細胞除去を用いたハプロ移植の成績を講演されましたが、懇親会の場で、CAR-T療法について情報交換をすることができました。ローマにおいても、企業のCAR-T製剤ではなく、自施設で開発した製剤を用いています。特徴的なことは、安全装置としてCAR-Tにカスパーゼ9による自殺遺伝子を導入した製剤を用いていることです。CAR-Tの働きが強すぎる場合には、自殺遺伝子を作動させ体内からCAR-Tを除去することができます。すでに、難治性神経芽腫を対象にGD2.CAR-Tの臨床試験を開始しており、有望な結果が得られているようです。

左から名古屋大学小児科 高橋教授、ローマ大学 Algeri先生、名古屋大学 小島名誉教授
左から名古屋大学小児科 高橋教授、ローマ大学 Algeri先生、名古屋大学 小島名誉教授

 ノバルテイスの治験では、日本で採取したリンパ球を米国に送り、米国の工場でCAR-T製剤を製造後、再び日本に空輸し、患者さんに投与するまでに、6~8週間必要としています。再発/難治例では、この間の腫瘍のコントロールができずに治療の時期を逸することが、解決すべき課題と思われます。名古屋大学から紹介して中国でCAR-T治療を受けた4人は、いずれの患者さんも、リンパ球を採取した翌週にはCAR-Tの投与が可能でした。

 海外では、固形腫瘍を含めCAR-Tの臨床研究が始まっており、研究の進歩に追いつくには、アカデミアによる臨床研究は欠かせないと思われます。




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