LECTUREDr.小島の小児がん講座

小児がん患者は新型コロナウイルスワクチンを接種すべきか lecture

2021.7.4
小児がん患者は新型コロナウイルスワクチンを接種すべきか
名古屋小児がん基金理事長/名古屋大学名誉教授
小島勢二

イギリス小児がん・白血病グループからの新型コロナワクチン接種に関するガイドライン:2021年6月23日改訂

日本小児がん・血液学会からのコロナウイルスワクチンに関するガイドラインを見つけることができなかったので、イギリス小児がん・白血病グループから公表された新型コロナウイルスワクチンに関するガイドラインを紹介します。このガイドラインを、日本人の小児に適用するにあたっては以下の点を考慮することが必要です。

新型コロナ感染による死亡者

日本人はイギリスなどの欧米人と比較して、小児を含めて重症化率や死亡率が低い。ちなみに、イギリスの0~9歳、10~19歳の小児人口は、それぞれ805万人、753万人で新型コロナウイルス感染による死亡者はそれぞれ7人、22人で、人口100万人あたり0.9人、2.9人である。わが国における15歳未満の小児人口は1512万人で、これまでに1万人余りの小児がコロナウイルスに感染しているが、死亡例は報告されていない。

重症化するリスク

イギリスにおける新型コロナウイルスに罹患した小児がん患者は少数で、また重症化するリスクも低いと考えられている。

イギリスで承認されているコロナワクチン(2021年3月の時点)

イギリスでは2021年3月の時点で承認されているコロナウイルスワクチンはファイザーワクチン(16歳以上)、モデルナワクチン(18歳以上)、アストラゼネカワクチン(18歳以上)の3種類で、16歳以下の小児に承認されたワクチンはない。

イギリスでは、2021年の前半に小児を対象にしたコロナウイルスワクチンの治験を行い、その後、小児がん患者を対象に治験が予定されている。小児がん患者のように、免疫抑制状態にある患者に対するワクチンの適用にあたっては、臨床研究によってその効果と安全性を評価することが重要であるが、現時点では根拠となるデータが存在しない。

16~18歳の小児がん患者は新型コロナウイルスワクチンを接種すべきか?

適切な時期にワクチンを接種することはイエスである。

ただ、理論的に急性リンパ性白血病の治療薬であるペグアスパラギナーゼはmRNAワクチンであるファイザーやモデルナワクチンと交差反応する危険性があるので、ペグアスパラギナーゼに対してアレルギー反応があった場合はmRNAワクチンの接種は控えるべきである。

一般に基礎疾患による免疫抑制状態があって感染症に罹患しやすい場合には、コロナウイルスワクチンの接種が推奨されているが、抗がん剤で免疫状態が抑制された小児では、ワクチンを接種しても十分に免疫がつかない可能性も考えられるが、データが存在しない。

16歳以下の小児がん患者はコロナウイルスワクチンを接種すべきか?

現時点では、16歳以下の小児においては、コロナウイルスワクチンの有効性や安全性に関するデータは存在しないので、この年齢層の小児がん患者のワクチン接種はノーである。

健康小児における有効性と安全性のデータが得られた後に、小児がん患者に治験を行い、ワクチンの適応を検討すべきである。先に述べたように、免疫抑制状態にある小児がん患者では、ワクチンを接種しても健康小児と同等な免疫効果は得られないかもしれない。

16歳以下でも発達障害があるような患者ではコロナウイルスワクチンを接種すべきか?

発達障害があって頻回に呼吸器感染を繰り返す患者で施設に入居しているような状況では、ワクチン接種を考慮してもよい。

治療終了した16歳以上の患者はコロナウイルスワクチンを接種すべきか?

がんの種類によって異なるので、担当医との相談が必要であるが、大部分の患者では、治療が終了して6ヶ月ほど経過すれば、コロナウイルスに罹患する可能性や重症化リスクは健康人と変わらない。

非常に感染に罹患しやすい小児がん患者の両親はコロナウイルスワクチンを優先して接種すべきである!

以下の場合を”非常に感染しやすい状況“と考える。

  • 急性リンパ性白血病や悪性リンパ腫の寛解導入中
  • 急性骨髄性白血病の全治療期間
  • 再発あるいは治療抵抗性白血病や悪性リンパ腫の化学療法中
  • 同種および自家造血幹細胞移植後の免疫抑制状態
  • CAR-T治療後の免疫抑制状態

小児がん患者に対するコロナウイルスワクチン接種に関する私見

イギリスはイスラエルと並んでコロナウイルスワクチンの接種が最も先行していることで知られていますが、小児へのコロナウイルスワクチン接種については思いのほか慎重です。イギリスでは健常な小児に対しても、予防接種に関する合同委員会(JCVI)はコロナウイルスワクチンの接種を勧めておらず、王立小児科・小児健康学部(RCPCH)も同じ見解です。

これを受けて、小児がん白血病グループのガイドラインでも、小児がん患者に対してもコロナウイルスワクチンの接種を推奨していません。

一方、イスラエルでは、デルタ変異株による流行を制圧するために、集団免疫の獲得を目指して12歳以上の小児へのワクチン接種を積極的に行っています。

わが国は、米国での治験の結果をもとに、12歳から15歳へのコロナウイルスワクチン接種を承認しましたが、イギリスでは健康小児、小児がん患者への治験を行い、その結果をもとに、小児がん患者へのワクチンの適用を考慮するようです。

イギリスにおいては、医学的な見地から健康小児さらに小児がん患者においても、重症例や死亡例は極めて稀なことからワクチン接種のメリットを認めていませんが、イスラエルでは社会防衛の立場から子どもへのワクチン接種を進めているようです。

重要なことは、抗がん剤による治療後でリンパ球機能が回復していない状態では、十分なワクチン効果が得られない可能性があり、ワクチンの適応を考えるには、小児がん患者を対象にした臨床研究が必要です。また、成人においては治験では明らかでなかった血小板減少を伴う血栓症や心筋炎などの副反応が見つかっており、小児でも治験後の副反応の報告には目が離せないところがあります。

わが国では、イギリス以上に小児の重症化が少なく、死亡報告もないことから医学的な立場からは、小児にコロナウイルスワクチンを接種するメリットは少ないと思いますが、社会防衛の立場からは、別の意見もあると思います。同居家族に、ワクチン接種ができない重症化のリスクが高い高齢者がいるような場合には、子どもにワクチンを接種することもありと考えます。

現在、デルタ変異株の流行が危惧されますが、変異株によって重症度やワクチンへの感受性は異なることから、ワクチン接種を考慮するにあたってはこれらの情報も欠かせません。

最後に、患者さんによって、治療やその後の免疫状態さらに取り巻く、社会環境も異なることから、担当医とよく相談されることを勧めます。

小児がん患者における新型コロナウイルス感染の報告




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