LECTUREDr.小島の小児がん講座

小児がん患者における新型コロナウイルス感染の報告 lecture

2021.7.4
小児がん患者における新型コロナウイルス感染の報告
名古屋小児がん基金理事長/名古屋大学名誉教授
小島勢二

基礎疾患をもつ患者さんへの予約受付が始まったことや、わが国で小児(12歳〜15歳)への新型コロナワクチン接種が承認されたことから、患者さんの御家族からのコロナワクチン接種についての問い合わせが見られるようになりました。日本国内では小児に対するコロナワクチン接種の経験はこれまでのところ報告されていませんので、コロナワクチン接種の是非を判断する材料として、海外における動向を紹介します。

日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会からの提言

新型コロナワクチンの承認を受けて、2021年6月16日付けで、日本小児科学会からは以下のような提言が発表されました。

  • 国外から、神経疾患、慢性呼吸器疾患および免疫不全症を有する子どもの場合、COVID-19の重症化が報告されている。国内においても、基礎疾患のある子どもの重症化が危惧されるので、ワクチン接種により重症化の防止が期待される。基礎疾患としては、心臓・肺、慢性神経疾患とともに悪性腫瘍も含まれる。
  • 健康な子どもへのワクチン接種も意義があると考えるが、接種にあたっては、本人と養育者が、ワクチン接種のメリットとデメリットを十分に理解していることが前提となる。

小児がん患者における新型コロナウイルス感染の報告

健康な小児においては、新型コロナウイルスに感染しても、ほとんどは無症状か軽症で経過しますが、小児がん患者がコロナウイルスに感染した場合の、重症化のリスクはどれほどでしょうか。わが国からは、まとまった報告がないので海外からの報告を紹介します。

イギリス:小児がん患者における新型コロナウイルス感染の報告

イギリスからは、2020年3月12日から7月31日までに新型コロナウイルスに感染した54人の小児がん患者が報告されています。疾患の内訳は、急性リンパ性白血病が24人、急性骨髄性白血病が4人、神経芽腫が6人、脳腫瘍が5人、その他が15人です。

コロナ感染症の重症度は、無症状が15人、軽症が34人、中等症が1人、重症が1人、超重症が3人でした。超重症の3人は集中治療室での管理が必要でしたが、死亡例はありませんでした。論文では、一般小児と比較して、小児がん患者でも、特に重症化のリスクは高くないと結論付けています。

イタリア:小児がん患者における新型コロナウイルス感染の報告

イタリアからは新型コロナウイルスに感染した21人の小児がん患者が報告されました。15人は治療中、6人は治療が終了しています。白血病が10人、悪性リンパ腫が2人、固形がんが9人でした。

12人はスクリーニング検査でPCR陽性が確認された無症状患者でした。神経系の疾患や放射線照射が原因でもともと肺に障害があった2人が、肺炎を発症しましたが、一般小児と比較して重症例が多い傾向は見られませんでした。

スペイン:小児がん患者における新型コロナウイルス感染の報告

スペインからは新型コロナウイルスに感染した15人の小児がん患者が報告されましたが、13人は白血病などの血液疾患の患者でした。4人は造血幹細胞移植後1年以内の患者で、他は化学療法中でした。11人は入院治療が必要でしたが、酸素投与を必要とする中等症患者は2人のみでともに改善し死亡例はみられませんでした。

フランス:小児がん患者における新型コロナウイルス感染の報告

フランスからは33人の新型コロナウイルスに感染した小児がん患者が報告されました。5人が呼吸状態の悪化により集中治療室での管理を必要としましたが、そのうち3人は、急性リンパ性白血病の再発例で、1人は同種造血幹細胞移植を受けて間もない患者でした。1人は脳腫瘍患者、残りの1人は同種造血細胞移植を受けた鎌状貧血の患者でした。死亡例は見られませんでしたが、健康な小児と比較して重症化のリスクが高いと論じています。

重症化のリスクは報告によって異なりますが、治療中、治療後の小児がん患者の重症化のリスクは健康小児と比較して極めて高いことはなさそうです。

小児(12歳〜15歳)を対象にしたファイザーワクチンの治験結果

今回の小児を対象にした新型コロナウイルスワクチンの承認は、ファイザー社が米国で、2,260人の小児を対象に行ったランダム化試験の結果に基づいたもので、わが国では、小児における治験データはありません。

ワクチンを2回接種後7日間以上経過した1,119人では発症者が1人も見られませんでしたが、プラセボ群の1,110人では18人が発症し、その発症予防効果は100%と成人と同様に高い効果が得られました。注射部位の痛みが80%, 倦怠感や頭痛が60%、38度以上の発熱が20%と比較的高頻度にみられましたが、血栓症やアナフィラキシーなどの重篤な副反応や死亡例は報告されていません。

わが国においても、すでに2000万回以上のファイザーワクチンが接種された成人例では、ワクチン接種後早期の死亡例やアナフィラキシーや心筋炎などの副反応が報告されていることから、今後発表される小児における副反応報告に注意を払うことが必要です。

小児がん患者は新型コロナウイルスワクチンを接種すべきか?

「小児がん患者は新型コロナウイルスワクチンを接種すべきか?」については、下記のページをご覧ください。



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