RESEARCH最新の研究内容

第43回日本造血細胞移植学会総会の話題から research

2021.4.8
名古屋小児がん基金理事長/名古屋大学名誉教授
小島勢二

日本造血移植学会から造血・免疫細胞療法学会に

第43回日本造血細胞移植学会総会は東京女子医科大学血液内科の田中淳司会長のもとで、オンライン開催されました。CAR-T治療などの、細胞療法の演題が増加してきたことから、日本造血細胞移植学会はその名称も日本造血・免疫細胞療法学会に変更されることになりました。今後、わが国におけるCAR-T療法に関するデータも移植学会のデータセンターで収集、解析されることになります。

世界におけるCAR-T療法の最新情勢

三重大学の藤原弘先生は、アメリカ・中国が牽引している世界のCAR-T療法の現状と今後の方向性についてレビューしました。

CIDR(細胞免疫療法データリソース)には、2019年末までに123施設から2058例のCAR-T療法を受けた症例が報告されました。対象疾患は悪性リンパ腫が71%を占め、急性リンパ性白血病の21%、多発性骨髄腫の6%が続きます。急性リンパ性白血病では、当初は同種骨髄移植後の再発例が50%を占めていたのですが、移植歴のない症例が次第に増えており、2019年には70%に達しています。

現在のCAR-T療法は自己のT細胞を用いているので、1)細胞採取から投与までに時間がかかる、2)製造コストが高いなどの欠点があります。

そこで、健康な他人から採取した細胞を用いて、誰にでも(universal CAR-T),すぐに使える(off-the Shelf)CAR-T製剤の研究が進められています。他人由来の細胞を用いるとGVHDが問題となるので、GVHDを起こさないように、ゲノム編集技術を用いて、T細胞受容体やHLAの遺伝子を削除したり、T細胞ではなくGVHDを起こさないNK細胞やガンマ・デルタT細胞を用いるなどの工夫が行われています。

CAR-T療法を受けた患者数の年次推移

名古屋大学における非ウイルスベクター法によるCAR-T療法の現状

名古屋大学におけるCAR-T療法の開発状況を高橋義行先生が報告しました。

名古屋大学では製造コストの削減を図るために、遺伝子導入にウイルスベクターを用いずに、piggyBacトランスポゾン法を用いたCAR-T製造法を開発しています。3例の成人を対象にした試験が終了し、現在は小児の急性リンパ性白血病を対象にした臨床試験を開始しています。

この技術を用いた企業治験が予定されているほか、名古屋大学から技術提供を受けたタイのチュラロンコーン大学でも、piggyBacトランスポゾン法を用いたCAR-T療法の臨床試験が始まっています。今後、他の発展途上国でも、安価な製造法を用いたCAR-T療法の普及が期待されます。さらに、小児に多く見られる脳腫瘍や神経芽腫に発現するGD2抗原を標的としたCAR-T療法の開発も手がけています。

名古屋大学における非ウイルスベクター法によるCAR-T療法の現状

名古屋大学における高リスク転移性神経芽種に対するKIRリガンド不一致同種臍帯血移植の最新治療成績

これまでも、名古屋大学における神経芽種に対するKIRリガンド不一致同種臍帯血移植の治療成績を報告していますが、今回、西尾信博先生は、2008年3月から2017年12月までに、名古屋大学を受診した43人の治療成績を報告しました。

高リスク群の中でも、1)化学療法に抵抗性、2)MYCN増幅、3)10歳以上のいずれかの因子を持つ場合のみ本プロトコールの対象としています。43人のうち、化学療法を追加するも腫瘍が増大する症例や治療毒性のためにプロトコールの遂行を断念した症例、家族の同意やドナーが得られなかった症例を除く31人で臍帯血移植が可能でした。

31人のうち、27人が臍帯血移植後生存しており、その中央値は64ヶ月(範囲:16~130ヶ月)でした。その結果、臍帯血移植後5年無病生存率は83.9%、全生存率は86.7%です。再発による死亡例は2人のみで、5年累積再発率は9.7%でした。

今回の治療成績が評価され、日本小児がん研究グループが行う次期ハイリスク神経芽腫治療プロトコールに、KIRリガンド不一致同種臍帯血移植が採用されることになりました。




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